2018年ニュルブルクリンク24時間レース、スバルはクラス優勝に終わる。 [2018年05月16日更新]
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ニュルブルクリンク24時間(以下、NBR24H)は、今や熾烈なワークス競争に。
全長20kmに達する、世界でもっとも過酷なサーキット。ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ。かつてナチス・ドイツにより建設されたこのサーキットは、世界に類を見ない過酷さとあって、世界中の自動車メーカーが最終テストを行う、自動車の聖地でもあります。
そんなニュルブルクリンクを24時間走って競うのが、このレース。世界最大の草レースと呼ばれ、かつてはその牧歌的雰囲気がお祭り的なノリで、人々を楽しませていました。見る方も、走る方も、お祭り。レギュレーションはユルユルで、マシンの数だけカテゴリーがある。そんな無茶苦茶なノリが、ニュル耐と呼ばれて親しまれてきたのです。
ところが、近年はワークスGT3マシンが急増。コンペティションレベルが急騰し、ルマン同様に24時間スプリントレース的な様相を呈しています。
なお、24時間レースは、150台もの車両がエントリーするため、ピットエリアとパドックはGPコースのものを活用。それ故、コースはノルドシュライフェとGPコースを複合したロングバージョンが使われます。(ラップタイムが、市販車レコードより遅いのはその為です。)
昔ながらの「ニュル耐」参戦スタイルを維持する、トヨタとスバル。
スバルは2005年以来、13年に渡って継続参戦中。WRCというフィールドを失ったスバル/STIが、次なるプロジェクトとして選んだのが、このレースでした。市販車に限りなく近い車両で、過酷な24時間レースを闘い抜くことで、将来に向けた技術の醸成と技術者の育成を図ることを目的としています。
それ故、チーム体制は可能な限りコンパクト。車両設計から、製作、メンテナンスまで、すべて自社でまかなうことをポリシーとしています。つまり、レースで勝利しブランドイメージ向上を図る、通常のワークス参戦とは目的と趣旨が違う。とスバルは主張してきました。
Toyota GAZOO Racingも、参戦目的は同じ。TMGでも、TRDでもなく、東富士を拠点に社員にレースフィールドを経験させることで、技術レベルと士気向上を狙っています。かつては、豊田章男社長自らドライブすることで、対外的により大きなメッセージを発信していました。また、先行技術を実験的に投入して評価を行うのも、トヨタの特徴です。
壊れたって、遅くたって、イイじゃないか。勝ち負けじゃない、皆で朝日をみよう!チェッカーを受けよう!誰よりも楽しく強く走り抜こう!かつての牧歌的な「ニュル耐」のイメージを維持しているのは、ドイツ人ではなく、日本人の方かも知れません。
雨中の危険なバトルを制した、ワークスポルシェが逆転優勝。
2016年、2017年とラスト1周の厳しい勝負が繰り広げられてきた、このレース。2018年も、危険かつ熾烈な優勝争いが展開されました。
上位は、予選からワークスサポートのGT3マシンが完全占拠。中でも、ポルシェワークスのマンタイレーシング、メルセデスAMGのサポートを受けるブラック・ファルコンの各2台が優勢。ここに、アウディ、アストン・マーチン、BMWのワークス勢が続く展開となります。
序盤をリードしたのは、911号車のワークスポルシェ。ところが、911号車が夜半にクラッシュでリタイヤすると、もう1台の912号車が上位に進出。トップを狙ってペースを上げてきます。この争いに残ったのは、AMG GTのブラック・ファルコン4号車。2台は、他を圧倒するペースでギリギリの闘いを展開していきます。
未明から振り始めた雨は休むこと無くコースを濡らし、昼前には酷いヘビーレイン。こうなると、RRのポルシェが優勢。トラクションに勝る912号車は、1周10秒速いペースで4号車との差を広げに掛かります。
が、好事魔多し。正午頃、912号車が減速区間での速度違反で3分32秒ものペナルティ。1分半ほどリードはフイとなり、逆に2分半もの致命的ビハインド!レースの趨勢が決したか、そう思われた14時頃。2台を待っていたのは、思わぬ展開でした。
山間部のサーキットはどんどん深い霧に包まれていき、視界確保に危険があると判断。オフィシャルは、ここで赤旗を提示。残り3時間半を残して、レースは中断されます。
強まる雨足で次第に霧が薄くなり始めた、14時。1時間半を残して、レースが再開されます。この時点で、トップ4号車と912号車のみが同一周回。優勝争いは、この2台に絞られます。
セーフティカー先導のため、2分半のリードは帳消し。再スタートは、完全なヘビーレイン。テールランプもかき消す分厚いウォータースクリーンの中、3位以下とは30秒以上速い(!!)ペースで2台は危険な接近戦を展開していきます。
決着は、129周目の1コーナー。完全にスリップストリームに入った912号車はブレーキングで並びかけ、2台が軽く接触すると4号車はハーフスピン!残り2時間での大逆転劇!912号車が、見事な優勝を遂げたのでした。
欧州メーカーの過剰な開発競争により、GT3は存続の危機に。
2018年のNBR24Hは、ワークスGT3マシンが上位を独占。今後、上位に進出するにはワークスサポートが不可欠となるでしょう。しかし、GT3のコンセプトは、誰がどのマシンを購入しても同じポテンシャルというもの。それが約束されているからこそ、GT3は世界で幅広く支持されてきました。しかし、その図式は早くも崩壊しています。プライベータは、次々に興味を失っていくことでしょう。
ワークスの過剰な競争が、参戦コストと技術レベルの急騰を招き、興味を失ったプライベータやメーカが次々撤退。そして、カテゴリーが寂しく終焉を迎える。欧州のカテゴリーは幾度も同じ過ちを繰り返してきました。GT3も、同じ道を辿るのでしょうか?
何処のレースでも、エントリーの半分はプライベータ。彼ら無しでは、レースは成立しません。アマチュアクラスの創設が、GT3にとって喫緊の課題となるでしょう。
完走=クラス優勝。レースであって、レースでなかった。日本勢のニュルブルクリンク24時間。
今回のレース、スバルのエントリーするSP3Tクラスは、全部で3台。しかも、相手はエンジョイクラブチーム。トヨタに至っては、エントリーは自身の1台のみ。両者ともに、レースと言ってもレースではない、完走=クラス優勝という、そもそも不完全燃焼のレースだったのです。
にも関わらず、2台ともに50位以内には一切顔を出すことなく終了。非常に厳しいレースとなりました。
スバルは、スタート早々にパワステトラブルを抱えて、50分のストップ。また、音量規制違反の指摘を受けたために、ショートシフトを余儀なくされ、更にペースを落とす要因となりました。赤旗中断からの再開後には、電装系トラブルでエンジンがストップ。レッカーでピットに戻され、残り21分でギリギリ再スタート。何とかチェッカーを受け、クラス1位ながら、23周遅れの総合62位に終わりました。
一方、Toyota GAZOO Racingは、先行開発を目的としたLEXUS LCをエントリー。こちらは、夜半にインテークに起因するエンジントラブルで長時間のストップ。その後もトラブルを繰り返して、大きく後退。サスペンションセッティングが悪いのか、走行中もまったくペースは上がらず、38周遅れの106台中96位でのチェッカーとなりました。
ファンの胸を熱くさせる。それが、ワークスチームに課せられた使命。
不甲斐ない日本勢のレースに、日本のレースファンはかなり気を落としたことでしょう。
ワークスで参戦するからには、如何なる参戦事由であろうとも、最低限の成績は残さねばなりません。今回のようなレースを繰り返せば、日本の自動車メーカーの技術レベルが疑われかねません。そうした意味で、今回のニュルブルクリンク24時間は非常に不甲斐ないレースだったと言えるでしょう。
日本のメーカーは未だに「挑戦者」として、海外レースに参戦しているようです。私たちは挑戦者だから、負けても、遅くても、壊れても仕方ない。参戦初年度はボロ負けでもイイ。いつか勝てれば、PRになる、と。
しかし、私たちは今や挑戦者ではありません。挑戦を受ける側の自動車先進国です。完走して褒めてもらえる、そんなレベルではありません。もう、ミソッカスではないのです。
韓国のHyundaiは、激戦のTCRクラスにワークスエントリー。トップと1周差のクラス2位に入賞しています。また、WRCでも素晴らしい闘いを展開中です。歴史の浅いHyundaiは「挑戦者」です。これだけの闘いでも、十分賞賛を受けられるでしょう。
これに対し、トヨタやスバルはモータースポーツでもレジェンド級のメーカーです。グッドウッド・フェスティバルに招待され、歴戦のマシンはコレクションとして取引されています。
今回のレースを通じてLEXUSとメルセデスやアウディを比べたとき、LEXUSを好意的に受け止めた方はいるでしょうか?WRX STIを見て、ヒュンダイi30よりも高性能だと思った方はいるでしょうか?今回のレースが、その歴史に相応しいものでは無かったことだけは確かでしょう。
来年以降、トヨタとスバルはどうするのでしょうか。相手のいないカテゴリーに参加するのでは、参戦意義は半減です。特に、スバルにとってNBR24Hは唯一の海外レースです。その動向が大いに注目されます。