東京オートサロン2022開幕!!遂に姿を表したSTI E-RA。その詳細に迫る。 [2022年01月09日更新]
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2022年01月14日 スバル
東京オートサロン2022、スバルの出展概要発表。注目は未知のレーシングコンセプト、STI E-RA CONCEPT。
スバルは昨年末、2022年1月14日〜16日に開催される「東京オートサロン2022」の出展概要を発表しました。
展示車両は、5台。そのうち、3台は市販モデルの架装仕様。現在市販中もしくは今後市販予定のパーツを多数搭載して、鮮やかに彩られたモデルが、WRX S4、レヴォーグ、BRZの3台登場します。そして、もう1台。2021年GT300クラスのチャンピオンマシン、「SUBARU BRZ GT300」が、ファンの声援に応えて登壇します。
そして、最後の1台が、今回注目のモデル。その名も「STI E-RA CONCEPT」です。E-RAとは、恐らく「era:時代」と「E:電動化」+「RA:STIモデルの伝統呼称の一つ」のダブルミーニング。[2022年1月16日追記]:Electric-Record-Attemptの略称。「記録への挑戦」の意味を込めて命名されたもの。
スバルの公式リリースには、「STIは、カーボンニュートラル時代に向けて、モータースポーツの世界で新しい技術の経験と修練を積むことを目的に新プロジェクトを立ち上げ、当プロジェクトで開発を進めてきた『STI E-RA CONCEPT』を初公開します。」とあることから、何らかのモータースポーツに関するプロジェクトを予告するモデルだと思われます。
スバルの最大株主は、トヨタ。そのトヨタは、WEC、WRC、SUPER GT、Super Formulaの他、ダカール・ラリーにも参戦中。積極的なモータースポーツ活動によって、アグレッシブなブランドイメージの創出に取り組んでいます。自ら率先してモータースポーツに関与する豊田章男氏は、これまでもスバルのWRC復帰への希望を繰り返し公言してきました。「親会社」の期待は非常に大きいと言えるでしょう。
ただ、サブコンパクトを持たないスバルは、残念ながらWRCへの復帰は実質的に不可能。そこで、WRCに代わって新たにイメージを創出するフィールドを求めて、新たなレーシングフィールドへと一歩踏み出す決意をしたのでしょう。
STI E-RAは、一体どのカテゴリーに準拠しているのか。スバルは、何処を目指しているのか。
公式リリースの文面上、何れかのレースに参戦するのは確実。では、E-RAが参戦するのは、一体どのカテゴリーなのでしょう?
公開された写真を見る限り、キャビンサイズは大きめで車高は低く、スタイリングは「日産・リーフ NISMO RC」に近い印象。プロトタイプカーではなく、市販を前提としているか、市販車をベース(もしくはイメージ)にしているものと想像されます。
真っ先に、可能性から除外されるのは、F1等のフォーミュラマシン、そしてオフロード系イベント。加えて、キャノピーの大きさから考慮して、WEC/IMSAのHYPER CAR/LMDhの可能性は除外されます。また、市販の予定を公言していないことから、GT3の可能性も無いでしょう。
名称に「E」を冠するからには、BEVもしくはシリーズ・ハイブリッドであるはず。しかし、電動化車両を許容するカテゴリーは、現時点ではFormula Eの他、WEC/IMSAのHYPER CARとLMDh、WRC(共通HVシステムを搭載)、World RX(世界ラリークロス選手権)のみ。つまり、E-RAが合致しそうなカテゴリーでは、依然として電動車両は許可されていません。[2022年1月16日追記]:BEV向けカテゴリーは依然検討中の段階ですが、FIA E-GTやDTM Electricなど幾つか構想が固まりつつあります。
[記事訂正:2022年1月14日]
シンプルに最も可能性が高いのは、ニュルブルクリンク24時間のSP-ProもしくはSP-Xクラスへの、特任車両としての参戦でしょう。VABは既に販売を終了、EJ20も生産終了済み。これ以上活動を続ける意味は全くありません。そこで、新たに電動化技術を導入して、次世代技術開発のカンフル剤とするつもりなのかも知れません。ただ、ファクトリー体制のハイブリッドプロトタイプカーの参戦を、メルセデスやアウディ等の他エントラントが簡単に認めるとは思えません。
残された可能性は、GT300です。GT300には、aprが長らくプリウスで参戦を続けています。2台のうち、1台がHV仕様。但し、レース専用の完全オリジナルマシンで、エンジンは5.4LのV8。これにハイブリッドシステムを組み合わせています。スバルもこれに倣って、ハイブリッドシステム搭載のマシンで「経験と修練を積む」ことを企図している可能性があります。ただ、GT300クラスは本来プライベータ向けのクラス。如何に実験的意味合いが濃いとしても、"正真正銘"ワークスのE-RAが参戦をすることは、余り感触の良いものではありません。
数々想像するも、模範解答は示せそうにありません。皆様、ぜひ14日の発表をお楽しみにお待ち下さい。
ニュルブルクリンク北コース、ラップタイム目標400秒。E-RAは、4モータトルクベクタリングで800kW!!
2022年1月14日、日本の自動車ファン待望のイベント「東京オートサロン2022」が開幕を迎えました。オミクロン株が猛威を振るう最中とあって、様々な制限が課せられた中での開催となっています。それでも、実質2年ぶりの大規模クルマイベントとあって、各メーカーとも熱気に溢れたブースを展開する注目のショーとなっています。
スバルは、午前11時よりプレスカンファレンスを開催。ここで、注目の「STI E-RA CONCEPT」の詳細を公開しました。結果的に、小生の予測はすべて外れ。。。E-RAは、どのカテゴリーにも適合せず、どのイベントへの出場も想定していない、パフォーマンスデモカーでした。[2022年1月16日追記]:但し、車両技術については、FIAが2021年6月に発表した次世代GTカー規格「FIA E-GT」を意識したものとなっており、今後の発展を匂わせています。
E-RAに課せられた達成目標は、ニュルブルクリンク北コースのラップタイム400秒。つまり、6分40秒。このタイムは、どの程度のレベルのパフォーマンスなのでしょうか。サーキット専用の電動化車両の最速ラップタイムは、2018年6月29日にポルシェが退役したLMP1-hをタイムアタッカーに改修した919Hybrid EVOで達成した5分19秒546。それに続くのが、VWのBEVパフォーマンスデモカーであるID.R。ラップタイムは、6分5秒336。市販用BEVではNIO EP9が、スリックタイヤを履いて6分45秒90を達成しています。やはり、919の圧倒的なパフォーマンスには、目を見張るものがあります。
STIが目標とすべきは、カテゴリーがそっくり共通のVW ID.Rでしょう。ID.Rは車重1,100kgで、500kW・650Nm。これに対し、E-RAは、1690kg/800kW・1100Nm。スペック上では、ID.Rを明らかに上回っています。その一方で、ウイング等の空力的付加物は控えめ。この辺りが想定パフォーマンスの差となっているのかも知れません。
自社開発BEVタイムアタッカー、E-RAの詳細は??ベースはGT300用マザーシャシーか?
さて、E-RAは一体どのようなパッケージングを有するモデルなのでしょうか。
E-RAはレギュレーションに縛られないため、自由なエアロパッケージが実現可能です。その割には、空力パッケージは控えめ。ID.Rのような巨大なリヤウイングは有していません。使用エネルギー量に限りがあるBEVですべきは、揚抗比。強大なダウンフォースを如何に効率よく得るかが重要です。それには、床下を活用するのが肝要。E-RAには、巨大なディフューザの他、フロントタイヤ後方に大胆な開口部が設けられており、床下でダウンフォースを得ることを重要視していることが伺えます。ただ、展示車両は単なるモックアップ。"ホンモノ"では、より実際に即した仕様にアップデートされることでしょう。
最新の情報によれば、モノコックは何らかのモデルの流用とされています。その形状から鑑みるに、CFRP製モノコックはGT300用マザーシャシーがベースでしょう。但し、エンジン・トランスミッションが存在しないため、モノコックから後方は完全な専用設計。BEVに対応する、オリジナルのスペースフレームが組まれているはずです。
マザーシャシーではFRを前提としているため、そのままではAWD仕様は実現不可能。そのため、前軸駆動用パワーユニットをマウントするべく、モノコックには何らかの加工・補強が成されているはずです。
4モータ独立制御で、広がるあらゆる技術的可能性。スバルは、トルクベクタリングで何を目指す?
パワートレインは、完全新開発の専用設計。[2022年1月16日追記]:ヤマハ発動機がハイパーEV向けに開発した、ギア・インバータ一体の200kW級パワーユニットを計4基搭載。総出力は800kW(1088ps)ですが、各輪の出力配分は不明。モータはIPMSM(永久磁石埋込型同期電動機)で、動作電圧は800V。蓄電量60kWhのリチウムイオンバッテリでこれを駆動します。合計800kWを実現するモータは、各輪独立制御で計4個。
[2022年1月16日追記]:車輪速、車速、舵角、G、ヨーレート、ブレーキ圧、輪荷重などの各種センサーからの信号をリアルタイム演算し、各輪個別のトルク制御によってトルクベクタリングを実現するとしています。スバルは、どの程度までトルクベクタリングを活用するつもりなのでしょうか。スバルはE-RAを通じて、電動化時代に於けるAWDの可能性を追求したい、としています。
エンジンをパワーソースとする従来の車両では、トルク制御はエンジンのトルクカットやデフの制御によって、トルクを0〜100%で制御してきました。これに対し、電動車両ではトルクを-100〜100%で制御可能になります。エンジンという呪縛から解き放たれることで、その制御にあらゆる可能性が拓けるのです。例えば、E-RAのような各輪独立の4モータであれば、戦車のような信地旋回も可能ですから、極端な話、ステアリング機構を省略することもできるのです。
問題は、操縦系をどうするか。BEVであれば、右足に右側2輪のトルク制御ペダル、左足に左側2輪の制御ペダルを配置し、双方を1ペダル式とすることで、ヨーを制御することも可能でしょう。
E-RAには、安全以外束縛するものが一切ありません。技術的可能性は無限に開けています。単にパワートレインを電動化しただけの車両に留まらず、大きな飛躍を遂げるパイオニアとなることを願うばかりです。
ワークスマシン、E-RAに課せられた使命とは?スバルは、E-RAで新たな伝説を残すことはできるか。
何れにせよ、E-RAプロジェクトはスバル、STIという看板を背負っての挑戦です。これまで築き上げてきた伝説に、さらに1ページを加えるものでなくてはなりません。
ワークスで活動する限り、やるからには決して失敗は許されません。加えて、後を追うのなら、必ず先人を打ち破らねばなりません。ですから、6分40秒は最低目標として、真の目標はID.Rの6分5秒336に置くべきです。もし、勝てないとしたら、それはスバルの技術力が、VWより劣るという証明。ニュルブルクリンクまで行って、恥をかきに行ったということ。
モータースポーツとは、そういうものです。レースは、シビアな勝負の世界。言い訳無用。負ければ、単なる敗者なのです。だからこそ、モータースポーツでしか得られないものがあるのです。
ホンダは、2015年にF1に復帰すると、凄まじい酷評に晒されました。単にパワーに劣るだけならまだしも、バンバン壊れたからです。しかし、F1という舞台に一度立てば、もう退くに退けません。あとは、結果で照明するしか無いのです。そして、ホンダはそれを証明しました。称賛と感謝がホンダブランドに新たなる1ページを書き加えました。すべてはハッピーエンドです。
スバルのE-RAプロジェクトは、如何なる成果を収めるでしょう。E-RAが、ノルドシュライフェで走り始めるその日を楽しみに待ちたいと思います。
E-RAは、単にタイムアタッカーとして生涯を終えてしまうのでしょうか。唯一可能性があるとすれば、パイクスピーク・ヒルクライムのアンリミテッドクラス。そこで目指すは、ID.Rの持つレコードタイム:7分57秒148。E-RAが、その名を歴史に刻み込む日が来ることを期待したいと思います。