「技術ミーティング」分析第二弾。〜2030年死亡交通事故を目指して〜 [2020年02月23日更新]
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最新車の進化に遅れをとる、旧型車。レトロフィットなしで目標達成は可能なのか。
スバルは、次なるアップデートを2025年以降に予定しており、インフラ及びコネクテッドの連携により、運転支援機能がさらに拡充される計画です。第4.5世代アイサイトとなるこのバージョンでは、自動運転システムが導入され、自動駐車/自動バレー駐車等の機能が実用化されます。第4.5世代アイサイトは、ハードウェアは第4世代と共通としつつ、信頼性が確保された分野について機能の最大化を図り、システム全体の能力を拡張していくことでしょう。
高度な危険対処能力を実現するには、リアルワールドに於ける情報の蓄積が不可欠です。しかし、試験車両で様々なインシデントに遭遇しようというのも難しいでしょう。となれば、コネクテッドを活用したユーザからのビッグデータ収集が唯一の解決方法となります。もし、これが実用化されれば、技術開発は加速度的に進むはずですが、収集した情報の個人情報保護については明瞭・明確な「交通整理」が必要となるでしょう。
収集・蓄積したデータを解析し、これを基にシステムを逐次アップデートしていく。こうした現在のスマホやPC用OSのような仕組みがあれば、一旦出荷された車両でもどんどん能力が拡張され、安全性能が高まっていきます。新車に買い換えない限り安全性能が向上しないという現在の方法よりも、死亡交通事故ゼロに対しては遥かに効果的でしょう。
米国の軍用機には、50年を超えて運用されている機体も少なくありません。こうした機体は、10数年ごとに最新のアビオニクスにアップデートすることで、第一線の能力を維持し続けています。これを「レトロフィット」と呼びます。日本の航空自衛隊も、80〜90年代に製造したF-15J MSIP機の大規模アップデートを進めています。このアップデートにより、F-15Jは最新のアビオニクスを搭載した新世代機へと生まれ変わり、今後数十年に渡り第一線で運用される計画です。
現在、自動車に於いてアップデートサービスを提供しているのはテスラのみですが、今後はレトロフィットが新たなコンテンツとして注目されるようになることでしょう。
ただ、コネクテッドが深度化すれば情報上の脆弱性も増加しますから、これに対抗するセキュリティ技術も必須となります。こうした分野は、自動車メーカーの手には負えない領域ですから、オールジャパン体制で運営されるMONETが、その基幹技術の確率を担うことになるでしょう。MONETは、トヨタとソフトバンクの歴史的な提携により設立された企業で、スバルを含む国内8メーカーが出資。MaaS時代の情報技術の創造と確立を目指します。
さらなる未来を見据えて、第4.5世代アイサイトはAI技術を導入する。
2020年代後半、スバルはアイサイトにAI技術を取り入れる構想を持っています。より正確な認識と、より的確な判断。それを、あらゆる状況下で下すことができるシステム。その実現のためには、より深度化したプロセスをもつAI技術が不可欠なのです。
しかし、現在のADASは、遭遇した状況を事前想定したシチュエーションに当てはめ、その対応を実行するだけのものです。ですから、交通が錯綜するような複雑な状況には対応できません。それ故、現在のADASはあくまで「運転支援」に留まるのであって、自律運転には依然程遠いものなのです。そう、現時点では本格的な自動運転など夢物語なのです。
複雑な知的行為である自律運転を行うには、自律的に状況を判断・理解するAI技術の投入が不可欠です。AI=人工知能とは、人のような知的行為を可能にする技術です。もし、AIがナイトライダーのKITTのように運転してくれるのなら、それが理想でしょう。AIが自ら考えて、運転を習得。複雑な交通状況をすべて理解し、常に最適な判断を下してくれる。それならば、人間は安心してAIに運転を一任することができます。しかし、2020年現在、人類は未だそれを可能とする、AI技術を実現できていません。
人は、「能動的」知的行為である考えることで、状況を判断・予測し、運転を行っています。常に「受動的」で良い、ADASとは求められるものは違います。
ですから、AIに自律運転をさせるには、AI自らが能動的に考えられねばなりません。そもそも、「考える」とは何なのか。「考える」ことは、受動的な行動である「判断」「分析」とは違います。現在でも、コンピュータにアルゴリズムを与えれば、受動的な判断・分析は可能です。しかし、能動的に「考える」のは不可能です。「考える」ことと「判断・分析」との間にある隔たり。その隔たりを乗り越えねば、真の自律運転は不可能なです。
AACNの導入により、適切な救助体制を早期手配を実現。救命率の向上に挑む。
コネクテッドは単一の機能ではなく、複数の機能として自動車に新たな可能性を与えるでしょう。その可能性の一つとして、スバルは緊急事態時の救命率が改善することを考えています。
現在、提供される一般的な「つながる」サービスは、エマージェンシーコールです。乗員自らがスイッチを作動させることで、緊急事態を発報。コールセンターと乗員との通話によって、いち早く救助要請を行うためのシステムです。レクサスなどでは、これを活用して、コールセンターとの通話によるコンシェルジュサービスも提供しています。
このシステムの延長線上にあるのが、AACN(Advanced Automatic Colision Notification)です。事故発生時に、GPS情報や事故の状況及びその衝撃をシステムがコールセンターに自動通告。たとえ、乗員が意識を喪失していたり、緊急通報が不可能な状態にあっても、救助要請を行うことができるシステムです。これにより、救命率の向上を図ります。
続いて、スバルは自動通告する事故情報の深度化を図ろうとしています。シートセンサーとの連携による、事故時の乗員数の通知。そして、歩行者保護エアバッグとの連携による、乗員以外の負傷者の有無などです。また、高速度通信が可能であれば、アイサイト取得映像をアップロードし、コールセンター側でより深く状況を理解することも可能になります。また、ドライバーモニタリングシステムとの連携による、急病人発生の通知も考慮されています。
第一報の時点で、事故情報を明確に把握できれば、レスキュー隊やドクターヘリ、特殊機材の必要性など、救助側はより適切な救助体制を整えることが可能です。そして、それは救命率に直結します。
ただ、こうしたシステムを24時間365日稼働させることは容易なことではありませんし、警察・消防の協力も不可欠ですから、メーカーの枠を超えたオールジャパン体制で実現を目指していくことになるでしょう。
目指すのは、世界初の称号ではない。自動車に携わる者の責務、死亡交通事故ゼロ。
スバルは死亡交通事故ゼロを目指すために、アイサイトの開発を日夜続けています。しかし、スバルは最新技術を拙速に市場投入することは、決してありません。技術開発が不十分なまま市場投入すれば、リスクをむしろ増大させてしまうからです。ADASで最も忌むべきは、誤作動です。時にそれはドライバーの意思に反して、事故を誘発してしまいます。それでは、全く本末転倒となってしまうからです。
スバルは、今後も細心かつ慎重に新技術を投入していくことでしょう。それでは歩みが遅いように思われるかも知れません。しかし、スバルが求めているのは「世界初」の称号ではありません。死亡交通事故ゼロを目指しているのです。