新型レヴォーグ[VN型]特集:その5 アイサイトXとアビオニクスとSTARLINKと。 [2021年02月05日更新]
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アイサイトXが実現した、各種機能の詳細とその作動条件。
まずは、アイサイトXの作動プロセスを見ていきましょう。
自車位置が3D高精度地図ユニットにより高度運転支援機能が作動可能なエリアだと判定されると、ディスプレイ上にアイサイトXのインジケータが「白色」で点灯します。この状態で、ドライバーがステアリン上のアイサイトXスイッチを押すと、インジケータが「緑色」に変わります。これで、アイサイトX(=高度運転支援機能)が作動状態となります。
以下、ご紹介する機能はアイサイトXのインジケータが、「緑色」か「青色」に点灯している時にのみ作動するものです。
では、各機能の作動とその条件について見ていきましょう。
渋滞時ハンズオフアシスト
アイサイトXインジケータが「緑色」で点灯し、かつ50km/h以下で先行車に追従している場合に限って作動します。渋滞時ハンズオフ作動時は、アイサイトXインジケータは「青色」で点灯します。作動中は、ステアリングから手を離した状態でも、アイサイトXが継続的に速度・進路制御を行います。
ただ、限定的なレベル2での認可のため、決して「自動運転」ではありません。ドライバーは、いつ機能がオフになっても対応できるよう、常に怠らず準備しておく必要があります。50km/h以上の速度ではアイサイトXの高度運転支援機能ではなく、通常のACC+ALKを利用することになり、ステアリング保持が必須となります。そのため、名称には「渋滞時」が加えられています。
よそ見・居眠りを検知した場合や、マップとステレオカメラ情報が整合できない、白線が消えている等の条件により作動対象外の状況にあると判断された場合には、まずドライバーに警告なされた後、機能が停止します。また、この警告が一定時間異常無視された場合は、ドライバー異常時対応システムに移行することがあります。
渋滞時発進アシスト
アイサイトXインジケータが「緑色」で点灯中、ACCによって先行車に追随して停止した場合、自動で再発進させる機能です。360度全方位センシングにより、周囲に危険が無いと判断された場合にのみ作動します。割り込み車両がある場合は、先行車には追従せず、停止を維持。わき見をしている場合には、前方注視を確認した段階で、再発進が行われます。
当然ながら、GNSS信号が受信できない環境やドライバーの表情が確認できない状態では作動しません。
アクティブレーンチェンジアシスト
アイサイトXインジケータが「緑色」で点灯中、ACCによって走行している場合、ウインカーレバーの操作のみで自動的にレーンチェンジを行う機能です。隣接車線に接近車両が確認されていない状況で、ウインカーレバーを車線変更したい側に「半押し」すると、ウインカーが点滅。ゆったりとした動作で車線変更が行われます。何らかの理由により、レーンチェンジがキャンセルとなった場合は、元車線に復帰します。
作動速度域は、70〜135km/h。当然、片側2車線以上の高速道路本線を走行し、その車線をアイサイトXが認識できている必要があります。また、ドライバーのステアリング保持、走行条件が直線または緩いカーブが条件です。JCTやICでの分岐に使用することはできません。
カーブ前速度制御
アイサイトXインジケータが「緑色」で点灯中、ACCの設定速度で走行している場合に、カーブを安全に通過できるよう、3D高精度地図データにより取得された曲率に基づき算出された「適切な速度」まで一時的に減速、加速抑制させる機能です。カーブ通過後は、ACCの設定速度まで再加速させます。
料金所前速度制御
アイサイトXインジケータが「緑色」で点灯中、3D高精度地図ユニットによって料金所に接近したと判断された場合、他車を妨げない30〜35km/h程度に減速して料金所に進入。さらに、20km/h程度に減速してETCゲートを通過。その後、ACCの設定車速まで再加速させます。
気を付けたいのは、アイサイトX作動エリアとなるのは高速道路上の料金所のみ。そのため、料金所を出る側は作動対象ですが、料金所に入る方は進入時点では一般道となるため作動対象外となっています。また、ETCカードの入れ忘れをアイサイトが感知しないため、ゲートが開放されない条件下でも開放されるものとして料金所に進入します。
ドライバー異常時対応システム
ACCにて車線中央維持が作動中に、無操作状態が一定時間継続した場合、ドライバーに注意を促し、それにも反応が認められない場合に、車両を自動的に非常停止させる機能です。
これまでのアイサイトでは、無操作状態が一定時間以上継続した場合に位は、ACC及びALKが機能停止する設計でした。これに対し、アイサイトXではドライバーに何らかのリスクが生じたと判断し、非常停止させることで重大事故発生の可能性を抑止します。第一段階では警告のみとし、第二段階でははザートを点灯させつつ、速度抑制及び減速開始。第三段階では停車させてホーンを吹鳴。周囲に危険を伝えるとともに、停車を保持します。
アイサイトの高い信頼。その秘密は、人間味に溢れた自然な制御と徹底した味付けと仕立てにある。
スバルのアイサイトは、これまでも高い信頼を得てきました。その要因として、その全ての作動が極めて滑らかで、なおかつ人間的である点は忘れてはならないでしょう。
ADASを初めて味わう方々は、そもそも「車両を勝手に制御する」システムを全面信用してはいません。誰しもが「本当に大丈夫だろうか?」「誤作動することは、本当に無いのだろうか?」という不安を持っているからです。しかし、ADASはこの不安を決して顕在化させてはなりません。不安が不安を招き、雪だるま式に増加するからです。例えば、想像以上に速度が出たり、唐突に減速したり、カーブで道を外れそうになる、といった状況は乗員を不安にさせますから、絶対にあってはならないのです。
そこで、スバルはアイサイトとクルマを完全に調和させるべく、各モデルごとに徹底した味付けと仕立てを行っています。エンジンの出力特性とブレーキの制動力特性、ステアリングの操舵応答性と、アイサイトの車両制御アルゴリズムを完全にマッチングさせているのです。ムリな再加速や唐突な加速は決してせず、減速は先を見越して早めに行います。加速と減速の間には、惰行の時間がちゃんとあって、加減速のGは滑らかに変化します。ライントレースは、ムリに車線中央を維持せず、若干アウト・イン・アウトをさせつつ、コーナリングGの変動を滑らかにします。また、クルマそのもののスタビリティを高めることで、直進安定性を確保。強風や路面変化で進路が取られないよう、充分な安定性を実現してきました。
こうしたこだわりは、アイサイトXでも変わりません。スバルは、アイサイトXの制御に社内で最高峰の技術を誇るテストドライバーの「癖」を組み込んでいます。アイサイトXの作動に「人工的」な匂いがしないのは、そのためです。レーンチェンジの作動は法規制上、極めてゆったりとしていますが、その作動は本当に滑らかです。
折角のアイサイトX。それは、日常的に使われてこそ意味のあるものです。そのための安心感と信頼感。アイサイトXには、それが完全に備わっています。
新たにスタートしたテレマティクスサービス。SUBARU STARLINKの概要。
新型レヴォーグでは、アイサイトXとは別にCASE時代の到来を告げる、新たなテレマティクスサービスの提供を開始しています。それが、SUBARU STARLINKです。STARLINK自体は、既に米国で数年来提供されてきたものですが、今回新たに国内でのサービス提供を開始します。
STARLINKが提供するのは「もしもの時につながる安心」「故障・トラブルをお知らせする安心」「大切な情報をお知らせする安心」という、3つの安心です。
STARLINKは、ユーザのスマホを介して提供されるものではなく、車両自身が外部ネットワークに接続することで機能するものです。そのため、一部サービスは有料で提供されます。(但し、初度登録から5年間は無料。)
このテレマティクスサービスのコアとなるのが、ディスプレイ裏に搭載されるDCM(データコミュニケーションモジュール)です。DCMは内部に内蔵電池を備えており、全電源喪失時にも一定時間内であれば、非常発報が可能です。通信には4G/LTE、通話にはVoLTEを採用しており、シャークフィンアンテナ内にメインアンテナを備える他、インパネ内にはサブアンテナも備えています。現在地座標の取得には、アイサイトXとは違うインパネ内臓のGNSSアンテナを利用しています。
DCMは、救命を左右する極めて重要なコンポーネントです。そのため、最も衝突の影響を受けにくい、インパネ下部にマウントするとともに、電源喪失時の非常電源を備える他、アンテナ及び専用スピーカもインパネ内部に設けることで、事故時の影響を受けにくいよう考慮されています。
1.先進事故自動通報[ヘルプネット](有料)
事故発生時に、エアバッグCUからの衝突検知信号をDCMが受信し、緊急通報システム「ヘルプネット」に自動で通報する機能です。事故により電源喪失した場合は、内蔵電池からの電源供給により、DCMの作動を確保します。ヘルプネットのオペレータには、現在地情報及び車両情報が通知されており、最寄りの警察・消防に緊急車両の主導を要請します。また、ユーザーがオペレータと通話不能な状態であっても、この車両データは緊急自動通報システム「D-Call Net」へ自動的に送信が可能であり、必要性が判断された場合にはドクターヘリの出動を要請します。
2.SUBARU SOSコール(有料)
急な体調不良等により運転の継続が突如不可能となった場合、ヘッドコンソールの「SOS」ボタンを押すことで、直ちに「SUBARU SOS」コールのオペレータに接続されます。オペレータには現在地情報及び車両情報が通知されており、ユーザーとの通話により必要があると判断された場合、緊急車両の手配を行います。
3.SUBARU iコール[安心ほっとライン](有料)
路上故障等によりお困りの場合に利用可能なサービスです。ヘッドコンソールの「i」ボタンを押すことで、オーディオがミュートされるとともに、「SUBARU iコール」のオペレータに接続されます。オペレータ側には、現在地情報及び車両情報が通知されており、レッカーサービスの手配等を迅速に済ませることができます。
4.故障診断アラート(有料)
エンジンチェックランプ等の警告灯が点灯した場合に、ユーザーのスマートフォンのアプリ「マイスバル」及びユーザーの登録メールアドレスに、その発生を通知します。その発生は、店舗側でも共有されており、より速やかな対処が可能になります。
5.セキュリティアラート(有料)
盗難防止装置が作動した場合に、ユーザーのスマートフォンのアプリ「マイスバル」及びユーザーの登録メールアドレスに、その発生を通知します。車両から離れた場所でも、異常の発生を知ることができるため、速やかに警察に連絡するなど、より安全かつ早期にリスクに対処することが可能です。
6.リコールお知らせ機能(無料)
車両のリコールが発表された場合に、ディスプレイ上にリコール情報を表示し、ユーザーにお知らせします。これにより、転居等によってDMが到着しない場合でも、即座にリコールの通知を受けることができます。
7.ソフトウェア更新(無料)
DCMのプログラムを、無線通信により無料で更新する事ができます。
果てさて、アイサイトXの搭載はベストな選択か、否か。
さて、新型レヴォーグには重要な選択肢があります。アイサイトXを搭載するか否か、です。
アイサイトXを搭載する場合、メーカーオプション価格として35万円(税抜き)がプラスされます。車体価格の1割にも達しますから、かなりの金額であることが理解できます。その一方、使用可能エリアは「ナンバリングされた高速道路の本線上」に限られますし、ハンズオフが使えるのは50km/h以下に限定されます。つまり、東京都・大阪府ならまだしも、その他45道府県では使う機会はそう多くは無いでしょう。
果たして、アイサイトXは本当に必要な装備なのでしょうか?
アイサイトXは、最先端レベルの技術水準を達成した、世界に誇るべきADASの一つです。しかも、それを400万円台という価格帯で市販に漕ぎ着けたことは、ライバルに比して大いに称賛されるべきでしょう。
実際、アイサイトXを構成するコンポーネントを部品単品価格(メーカー原価ではなく)で調べていくと、その総額は100万円を軽く越えます。新世代アイサイトのみで見れば、総額20万円ほどですから、驚くべき金額です。もちろん、部品単価はメーカー調達価格とかけ離れてはいますから、一概には比較できないものの、+35万円というメーカーオプション価格がスーパーバーゲンプライスなのは間違いありません。しかも、そこにはソフトウェアの価格は含まれていないのです。
そういう意味に於いて、新型レヴォーグでアイサイトXを選択することは、充分理に適っていると言えるでしょう。寧ろ、アイサイトX非装着車を「ダウングレード版」と考えた方が適切なのかも知れません。
初期受注の時点では、アイサイトX装着率は何と94%にも達します。つまり、非装着車はたった6%に過ぎません。ここまで圧倒的な比率となれば、非装着車の下取り価格は心配しておく必要があります。まるで、初代レヴォーグのアイサイト非装着車の如く、厳しい評価となる可能性があるのです。つまり、金銭面で見る限り、初期取得額ほどにはマイナスは少ないように思えます。
ただ、レベル2という基準で評価すれば、アイサイトXは充分安価でしょうが、スバル車という基準で考えれば、ほとほと高価なのも事実です。消費者は、常に価格と価値のバランスを重視します。アイサイトXの価値が、価格に見合わなければ、新型レヴォーグの試みは失敗に終わるでしょう。
決して忘れてはならない。ADASが進化する意味。そして、本来の価値。
アイサイトXは、高速道路や自動車専用道路を走行中、作動条件が整ったときに運転操作や車線変更などを支援する機能です。3D高精度地図ユニットを利用することでより高度なアクセル、ブレーキ、ハンドルの制御をすることで、運転者を支援します。但し、高度運転支援機能(アイサイトX)は自動運転ではないため、安全運転義務はドライバーにあり、必要に応じて車両を操作する必要があります。
以上が、アイサイトXに対するスバルの説明です。ここで重要なのは、アイサイトXはハンズオフ機能について「レベル2」で認可を受けているため、安全運転義務は常にドライバーにある点です。
アイサイトXは、3D高精度地図ユニットにデータがある高速道路であれば、50km/h以下でのハンズオフが特別に認可されています。ただ、あくまで離して良いのは「手」だけ。ドライバーは常に前方を注視せねばなりませんし、勿論スマホをイジることは許されません。如何なる状況であれ、事故に至れば、その責任はすべてドライバーが負うことになります。
アイサイトXを知るには、まずこの事を念頭に置かねばなりません。自動車技術の高度化により、様々な運転支援機能が実現しています。しかし、その価値に目を奪われて、本来目的を見誤ってはいけません。目的はドライバーを「楽にする」ことではなく、不幸にも、今日も、明日も、明後日も失われるであろう人命の損失を「ゼロ」にすること。「2030年死亡交通事故ゼロ」を目標に掲げるスバルは、そのための一歩としてアイサイトXを開発したのです。
それ故、アイサイトXの各機能は、相当慎重に吟味された上で実装されています。話題性・世界初という価値に囚われれば、ADASの本来目的が蔑ろにされかねません。安定性・確実性の低い機能が、自車及び他車のリスクを高めることは、決してあってはならないのです。そこには、航空・鉄道など交通インフラの一翼を担ってきた企業としての念持があるように感じられます。
別項にまとめてある通り、航空・鉄道では事故の度に徹底した検証が行われ、同様の事故を繰り返さぬよう徹底的な改善が図られてきました。その結果、遥かに安全性の高い交通機関へと発展を遂げることができたのです。翻って、自動車はどうでしょうか。事故の責任が「素人」であるドライバーに一任されることを理由に、事故は法的原則に則って調べられるだけで、技術的観点から徹底調査が成されることは殆どありません。毎年、数千人もの人命が失われているにも関わらず!です。
今後、ADASはさらなる技術的飛躍を遂げていくことでしょう。その過程においても、すべてのOEMが本来目的から逸脱せぬことを願うばかりです。