自動車は、どう進化すべきか。 [2023年05月09日更新]
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自動車の基本的価値から考える。
ここで大切なことは、実現すべきは空飛ぶクルマではなく、空飛ぶクルマが実現する価値です。同様に、実現すべきは自動車と都市の融合そのものではなく、融合によって得られる価値です。SONYは、ウォークマンによって音楽を街中何処でも楽しめるという、全く新たな価値を提供し、音楽界に革命を巻き起こしました。大切なのは、技術ではなく、あくまで価値なのです。
では、そもそも自動車の基本的価値とは何でしょうか。
第一に、移動体です。A地点からB地点まで移動するのが、自動車の最大の目的です。
第二は、輸送です。自動車は、様々な荷物や人を距離を問わず、移動可能です。
第三は、移動の自由です。道路がある限り、目的地、移動経路を自由に選択可能です。
第四は、快適性です。雨でも、雪でも、寒暖に関わらず、快適な空間を提供します。
第五は、愉しさです。自ら操る愉しさは他の移動体では決して味わえないものです。
第六は、個室空間です。如何なる場所でも、完全なプライベート環境を提供します。
線形性上の進化から考える、自動車の未来。
究極の自動車を考えるとき、最もシンプルな方法は、既存の価値を進化させ、制約を打破することです。空飛ぶクルマは、道路という制約を打破することで、移動の自由をさらに進化させます。同様の考え方で、快適性を進化させることも可能です。例えば、ウイルスや花粉、微細な粒子を完全に排除した快適クリーン空間を実現する。簡単な話、クルマに乗ると、花粉症がピタリと止まり、頭がシャキッとするのです。そういうクルマがあれば、毎年花粉症に酷く悩む方にとって素晴らしい価値となるでしょう。
別のアプローチ手法として、顧客を変える方法もあります。移動の自由、移動の愉しさは、免許所持の方のみに提供されるもの。では、高齢者や子供たちにそれを提供することは可能でしょうか?その一つの回答が、完全自動運転です。ただ、それではバスも同然で味気ない。ならば、完全なる運転アシストシステムはどうでしょう。老若男女を問わず、免許の有無を問わず、安全に誰でも運転を愉しむことができるなら、それは素晴らしい価値を提供するはずです。
全く別の考え方もあります。自動車は、地球環境に害をなし、人々を交通事故の危険に晒し、エネルギーを消費します。それら欠点をすべて逆転し、人々に幸せを提供し、地球環境に益する存在になることは出来ないのでしょうか。自動車のお蔭で、地球環境は破壊の縁から救われた。そういう存在へ進化することもできるはずです。
革新を実現するには、非線形の進化が不可欠。
でも、それだけで良いのでしょうか?進化は、それで十分でしょうか。この20年、自動車の価値は殆ど進化していません。空白の20年を取り戻し、次の20年へ向けて進化を果たし、子供たちに夢と希望を与えるには、線形性上の進化では絶対に不十分。非線形の革新が不可欠なはずです。
未来の自動車にとっての最大のライバルは、あらゆる機能を廉価に実現するスマホです。都市部に育ったZ世代と呼ばれる人々がせっせとバイトに勤しむのは、クルマを買うためではなく、スマホ代を稼ぐため。次代を担う彼らに振り向いてもらうには、自動車はどんな価値を実現するべきでしょう。その鍵は、他の手段では絶対に代替できない、自動車だけが実現できる価値にあります。
自動車は、個人と最も密接的に関わる機械の一つであり、空間として人を包み込むことができる唯一の輸送機器です。簡単に言えば、自動車は自由に移動可能なプライベート空間だ、ということです。でも、そんな事当たり前だ!という方も多いでしょう。
でも、現代の自動車はその価値を最大化できているでしょうか。自動車は、本当にプライベート空間たり得ているでしょうか。キャンピングカーは、最良の模範解答の一つでしょう。ユーザの目的と趣向に合わせ、様々にカスタムビルドが可能であり、自分だけの移動プライベート空間を実現できるからです。でも、キャンピングカーだけが答えではないはずです。
移動プライベート空間という唯一無二の価値。
誰だって、プライベート空間は自分なりのスタイルにしたいもの。ですから、家は人によって十人十色。家具や照明、家電などにこだわって、自分なりの空間を実現すれば、そこには個性や趣味、興味が自ずと反映されます。大好きな漫画に囲まれて暮らす人、調理家電にこだわる人、ジム機器を並べて日々鍛錬に励む人、究極にシンプルなミニマリスト等々、文字通り千差万別です。
でも、自動車はどうでしょう。どのクルマを覗いても、インテリアは大凡一緒。小物やアクセサリー、積載物の差が精々です。これでは、自分の自分による自分だけの空間と言うには無理があります。
自動車が、人を包み込む唯一の移動空間なのなら、もっと個性を反映できるようにするべきです。漫画好きなら大量の本棚を、料理好きなら調理機器を、トレーニング好きならジム機器を、ミニマリストならシンプルに。自動車の仕様は、消費者が自由自在に選べるべきです。海が好きなら、海辺で。山が好きなら、高原で。あらゆる場所で、誰にも邪魔されず、自分の趣味を実現できる自分だけの空間。そんな自動車なら、消費者はもっと魅力を感じてくれるはずですし、決して高いとは言われないでしょう。
だったら、DIYで本棚作ればイイし、料理ならキャンピングカー、ジム機器は積めばイイし、シンプルならバンを買え。そう冷たく言う人もいるでしょう。でも、それは消費者本位ではなく、自動車業界本位の考え方。あるヤツの中から選べ、という事です。でも、それは本当に個性の表現でしょうか。
マスから個へ。自動車も注文設計の時代へ?
メーカー押し付けの仕様、装備は、生産性の都合です。自動車産業は、あらゆる部品、コンポーネントの共通化を図ることで、コストダウンを推し進め、高機能化と高収益化を実現してきました。しかし、過度な共通化の結果、各OEMのモデルは金太郎飴状態と化し、こだわりや技術者の思いといった無形の価値は失われ、個性やクセも失ってしまったのです。
マスから、個へ。時代は大きく転換しつつあります。番組表に従って視聴するテレビから、自分の好きな時間・場所で楽しめる動画配信へ。情報を一方的に流すマスメディアから、自ら情報を取捨選択するSNSへ。事例を挙げれば、枚挙に暇がない程です。
であるなら、自動車もマスから個へ、大転換を図るべきです。既成の仕様から選ぶのではなく、消費者自ら創造する自動車への大転換です。自動車も家と同様に、単なるハコで良いのです。価値は、消費者自身が創り上げるべきなのです。
デジタルツインを活用すれば、決して不可能ではないはずです。消費者は、実現したい機能・求める価値をまず決定。プロの手を借りつつ、それらを実現するクルマをデジタル上でビルド。仮想空間上で走行試験や耐久試験、衝突試験を実施し、設計の良否判定を通過した世界で唯一つの設計データは、AIが自動的に詳細設計を実施。仮想空間上で完成した車両データは生産工程へ転送され、必要な部品は3Dプリンタで個々に製造。全自動工場でアッセンブリされた後、匠の手で最終仕上げが実施されます。
現在視点から未来を考えては駄目。
もっともっと先の未来を想像すれば、自動車は自ら変形するのが理想でしょう。対話型AIがドライバーとの対話の中で、求める姿を想像し、それに沿うように自動車側が変化していく。清々しい晴天ならオープンカーに変形。気持ちが沈んだ日なら、出先で心地よいベッドが現れる。。。
そんなのは絵空事、実現不可能だと否定する方もいるでしょう。でも、未来を創造する時、現在視点から判断するのは適切ではありません。30年前、携帯電話がやっとの時代。スマホが実現できると考えたエンジニアは殆どいなかったはずです。未来技術の可否は、未来の視点で判断せねばならないことに留意すべきです。
1957年10月4日、ソビエトのセルゲイ・コロリョフは人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功します。終戦から、たった12年後の出来事です。そして、スプートニクからたった3年半後、コロリョフはユーリィ・ガガーリンを周回軌道に乗せることに成功します。1945年時点では、コロリョフ自身でさえ想像しない未来でした。なぜなら、終戦時にはコロリョフは囚人服を着ていた(!!)のです。
ですから、今から12年後に、まるで注文住宅の如く自動車が自在に設計可能になっていても、少しも不思議ではないですし、30年後に自動車が変形するのは決して絵空事ではないのです。
人が想像するものは、いつか必ず実現できる。
では、スクラップ・アンド・ビルドこそ正義、革新のためには全てを破壊するべきでしょうか。抵抗勢力や頭の固い「老害」を全員クビにすべきでしょうか。それは違います。そもそも、排除の先に未来はありません。その結末にあるのは、対立だけです。それに、全員が猪突猛進すれば企業は必ず破綻します。自動車にアクセルとブレーキがあるように、革新派と保守派のバランスは絶対不可欠です。大事なことは、リーダーが中立の立場にあって、ビジョンとミッションを掲げ、双方をうまくコントロールすること。
宇宙への偉業を成し遂げたセルゲイ・コロリョフの人生は、実は逆境続きでした。スターリンの大粛清で逮捕され、強制労働で死の淵を彷徨ったこともあるのです。しかし、コロリョフは一度たりとも宇宙への夢を捨てたことはありません。それから、15年。コロリョフは、ひたすらに自らの信念を説き続け、やがてはクレムリンを動かしてしまうのです。そして、コロリョフの夢は、いつしか人類の夢となりました。
如何なる逆境にあっても、常に可能性を信じ、革新への揺るがない信念を持つこと。それは、イノベーションを成し遂げたすべての偉人たちに共通することです。でもそれは、日本のOEMを築き上げた先人たちすべてに共通することです。OEMだって、半世紀前は革新を渇望するモチベーションに溢れていたのです。何を以て、何を成すべきか。OEMは、創業の原点に立ち返り、今一度革新へのモチベーションを取り戻すべきです。残された時間は決して多くありません。しかし、世界人類が自動車の革新を待ち望んでいることだけは、間違いありません。