スバリズムレポート第3弾「ステルス技術の全貌。」完全版:U-2からF-22まで。 [2019年02月06日更新]
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前方からの被探知のみを考慮し、コスト低減を図る「パックマンステルス」。
レーダ反射低減のため、ステルス機はインテークダクトを湾曲させているため、正面からはファンブレードは見えない。出典:US AirForce
インテークダクトや排気ノズルも、盛大なレーダ反射を起こす可能性があります。
ステルス機のインテークダクトは、わざと長く湾曲させて作られており、タービン前面に直接レーダ波が当たるのを防いでいます。現在では、精度良く設計できるようになったため、F-117のようなメッシュを貼る必要がなくなっています。
F-117AやB-2A、F-22Aでは、全方位ステルスを求めて排気口が設計されているのに対し、F-35やSu-57では、通常タイプのノズルを用いています。これは後方からのステルス性を妥協したためです。攻撃機の場合、攻撃ポイントまで辿り着くのが最大のミッションだからです。こうした機体を、パックマンステルスと呼びます。
F-35Cのエンジンノズルはエッジ処理されているものの、右のF-22Aに比較すれば随分大雑把な処理。それ故、F-35は後方からのステルス性が高いとは言えない。出典:US NAVY/US AirForce
だいたいは徒労に終わる、それがステルス技術の厳しさ。
RCSの比較。但し、数値には諸説あります。参考程度に御覧ください。
微に入り細に入る細やかな設計で生み出される、ステルス機。その効果とは、どれ程なのでしょうか。
屈指のステルス性能を有すると言われるF-22。一説には、そのRCSは0.0001㎡。これを100㎡という巨大なRCSを持つB-52を比較すると、その被探知距離は1/31。逆に言えば、B-52の1/31の距離まで近づけば、F-22であっても被探知されてしまうということです。
レーダ探知距離を求める公式に当てはめて考えると、探知距離はRCSの4乗根に比例することが分かります。つまり、被探知距離を半分にしたいのなら、RCSを1/16にせねばならないということです。
ステルスは、1にも2にも形状です。些細なズレや歪みでさえも、ステルス性能を台無しにします。設計上は完璧であっても、それを完全に再現し得る製造精度と、維持し続ける整備技術が不可欠です。しかも、それを何百機を量産し、数十年運用する中でも、完璧に維持し続けなければ無意味なのです。この難題は、ロシアや中国には厳しい注文でしょう。
米国は、ロシアや中国のステルス性能について、余り警戒していないようです。RCSとステルス性能の原理が分かっていれば、それも頷けます。
[左]中国の新鋭ステルス戦闘機J-20。ステルス性に不利なカナードを備えるうえ、エンジンノズルは徹底した処理は施されていない。Alert5 [CC BY-SA 4.0], from Wikimedia Commons
[右]ロシアの新主力戦闘機Su-57。こちらも、エンジンノズルは通常タイプとなっている。Alex Beltyukov [CC BY-SA 3.0 GFDL 1.2, CC BY-SA 3.0 or GFDL 1.2], via Wikimedia Commons
1974年にスタートした、極秘プロジェクト「XST計画」。
スカンクワークスが当初構想したのが、航空機とは思えない八面体のホープレスダイアモンドと呼ばれた案だった。
SR-71は存在こそ公表されたものの、機体形状に隠されたレーダ反射低減に関する情報は一切秘匿されました。内側に傾斜させた垂直尾翼と特徴的なチャインは、すべて空力学的効果のためと説明されたのです。
しかし、その研究は機密のベールの裏側で着実に進められていました。当時はステルスなどという言葉は存在せず、レーダカモフラージュと呼ばれていました。1970年代初め、国防高等研究計画局(DARPA)は低視認性の機体についての研究を開始します。研究主体がDARPAとなったのは、海千山千のこの技術が果たして本当に有効なのか、実現可能なのか誰にもわからなかったからです。
1974年、ハブ・ブルーもしくはXST(Experimental Stealth Technology)と呼ばれる極秘計画をスタートさせ、5社を招聘。そこにあぶれたスカンクワークスは、当時の代表ベン・リッチが実績をアピールして参加に漕ぎ着けます。
RCSを予測するプログラム「エコー1」が、ステルスに革命をもたらす。
ステルス性を考慮しつつ、実現性を織り込む。翼を与えられたホープレスダイアモンドは、少し航空機らしくなった。
スカンクワークスは、数学やレーダの専門家を動員してRCS低減の方法を模索。そこで、数学者のデニス・オーヴァーホルザーとビル・シュレーダーが、傾斜した平面の組み合わせで機体を構成する方法を提案します。ホープレスダイヤモンドと呼ばれたこの案は、上下各4面の三角形を組み合わせただけの、恐ろしくシンプルな形状でした。素人目には、とてもこれが空を飛ぶとは思えない形状です。
XST計画で威力を発揮したのが、オーヴァーホルザーが開発したRCS予測プログラム「エコー1」です。エコー1は、機体表面を大きな平面に分割し、これを合算しておおよそのRCSを予測するものでした。しかし、エコー1はエッジで散乱するレーダ波の予測が不可能でしたし、最適解を導いてくれるものでもありませんでした。
ソ連の科学者の論文から、米国が得たもの。
逆V字型の尾翼を追加したのが、ハブブルーと呼ばれる試作機の形態。これでも、奇っ怪な形状には違いない。
ホープレスダイアモンドが、単純な多面体となったのはエコー1の能力が多分に影響していました。
オーヴァーホルザーらは、エッジの数学的処理を探求する過程で1つの研究論文に行き当たります。ソ連の電子工学者ピョートル・ウフィムツェフによる物理光学的解析法は、新しい解析手法によってエッジの誤差を克服可能でした。より高い精度でRCSを予測できるようになったのです。
翼を授かったホープレスダイアモンド、勝利を得る。
ただの菱形に過ぎなかった当初の機体案は、具体化するにつれ主翼、尾翼を得て航空機らしく進化していきます。1975年8月、第1段階の選定に残ったのはスカンクワークスとノースロップでした。両者の案は、縮尺モデルでRCS実測試験が実施され、より詳しく検討が行われます。
ハブブルーと呼ばれることになるRCSモデルは、高いポール上に逆さに据え付けられ、より詳しく測定されました。試験結果では、RCSに優れていたのはノースロップの機体案。
ところが、1976年初めに選定されたのは、スカンクワークスのハブブルーでした。U-2、A-12、SR-71と機密を保持しつつ、開発を行った実績を評価されての勝利でした。
未だに多くの謎に包まれている、XST計画の全貌。
2機とも事故で失われたハブブルー。量産型のF-117Aと違って、内側に傾斜した小型の垂直尾翼が特徴。
US Air Force Photo [Public domain], via Wikimedia Commons
DARPAはスカンクワークスに、約3000万ドルを与え2機の試験機製作を発注。1977年12月1日、ハブブルー1号機がエリア51で初飛行を実施します。この1号機は36回飛行するも、翌年5月4日に事故で喪失。1978年7月に進空した2号機に試験は引き継がれます。その2号機も1979年7月に空中火災で機体放棄。ハブブルーは、2機とも事故で失われてしまいます。
ハブブルーは現存してらおらず、その存在は長らく伏せられてきました。現在でも、公開されている情報は多くありません。