レヴォーグに乗って、未来の自動運転を考える。 [2015年12月24日更新]
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自動運転は果たして可能なのか。「レヴォーグ」に乗って考える。
ぜんぶクルマ任せ。クルマが勝手にスイスイ走る。「自動運転」を体験したことはありますか?そんなのまだまだ夢物語・・・そんなことはありません。ぜひ、レヴォーグで「自動運転」を体験してみてください。スピード調整も自動。ハンドル操作も自動。ものの見事に、スムーズに高速道路を走り抜けます。未来の自動運転とはこんなものかと感慨にふけることしばし・・・。
と言っても、進路選択や減速旋回はできません。地図データを参照していませんので、こういった複雑なことはまだ難しいのです。結局のところ、現時点では発展途上の技術なのです。
自動運転は本当に実現可能なのか。
自動車メーカー各社は2020年に向けて、自動運転技術を全力で開発中です。電動化、燃料電池、自動運転。新「三種の神器」と申しましょうか。メーカーは生き残りを掛けて、全力開発中なのであります。
しかし、ひとつ疑問に思うことがあります。「自動運転」は本当に実現可能なのでしょうか。スバルの自動運転への取り組みを通して、そのあり方について考えてみましょう。
アイサイトと自動運転技術。安全と技術発展。
富士重工のルーツは中島飛行機という航空機メーカーです。性能を第一とした三菱に対し、中島飛行機は常に性能よりも人命第一。この考えは戦後にも引き継がれ、1965年には早くも衝突実験を開始。デザインよりも、空力よりも、安全を再優先にする設計をかたくなに守り続け、今では衝突安全性能で世界最高峰の評価を受けるに至っています。
「人は必ずミスをする」という航空機開発の観点から、1989年に研究に着手した安全運転支援システム。以来、信頼性を第一として着実に前進を続け、アイサイトと名を変えた今では世界最高の性能を誇っています。スバルは、2020年に向けてアイサイトの次なる目標を「車線変更を含めた高速道路自動運転」に定めました。今のアイサイトから考えれば、慎重すぎる目標設定とも思えますが、なぜなのでしょう。
それは、スバルがシステムに「完璧な信頼性」を求めているからです。システムにエラーがあれば、事故を誘発しかねません。安全運転支援システムが事故の原因となるなど、あってはならないのです。リスクがあるなら、安全を取る。それが、スバルの安全技術に対するアプローチです。
公共交通機関における安全の確保。
運行管理システムを導入している鉄道路線は、全列車は中央司令室で集中的に管理されています。不具合を生じた場合、全列車に緊急停車が命令され、運行再開は原因究明と対処がなされた後になります。鉄道は緊急停車によって最低限の安全を確保しています。線路という閉鎖環境で、一定の列車間距離を常に保たれている鉄道だからこその、安全管理です。
航空機の運行は、すべて管制官の管理下にあります。離陸、着陸進入はおろか、進路その他すべてに管制官の許可が必要です。航空機の運行は、管制官の交通整理によって最低限の安全が維持されています。機体本体に故障や設計ミスが発見された場合は、程度によって当該機体だけでなく、同型機すべてに飛行停止処置が取られます。部品は、製造過程はおろか原材料まですべて遡れるよう管理されており、徹底的に原因究明がなされます。
公共交通機関では、かつて凄惨な事故によって多大なる犠牲が払われてきました。現在の安全管理は、この教訓を基に形作られたものです。
結局はドライバー個人に委ねざるを得ない、自動車の自動運転システム。
自動車の自動運転システムには集中管理センターは存在しませんから、安全に関する全責任を負う最終決定権者は存在しません。では、責任は誰のもとにあるのでしょうか。それはもちろん、個々の車両のドライバー本人です。しかし、それで良いのでしょうか。
運転支援システムならいざ知らず、自動運転システムでは運転はシステムに一任されます。にも関わらずシステムに関して素人である一般ドライバーが運用することに、危険はないのでしょうか。システムを十分理解し、不測の事態に対し正確に対応できるよう訓練を受けたドライバーであれば、安全は担保されるのかも知れません。しかし、一般ドライバーにそれは不可能です。
巨大システムにバグはつきものですが、バグに起因する重大事故が発生したとして自動車メーカーはその責任を負うのでしょうか。バグのお陰で事故に至ったドライバーは、刑事責任を負うべきなのでしょうか。
「F-35」に見る巨大システム開発の落とし穴。
次世代戦闘機プロジェクト「F-35」では、その開発費は500億ドルに達しています。その開発費の多くは、驚くことにソフトウェアに関係するものです。F-35ではレーダー等の各種センサーの他、ネットワークからも膨大な情報が入ってきます。この中から情報を選別し、優先度を判断して、対処法を選定する。この一連の作業に要するソフトウェアに莫大な開発コストと長大な歳月を要しているのです。
自動運転システムでも、それは同じです。自車のセンサーの他、ネットワークから入ってくる膨大な情報を選別して、継続して処理し続けなければなりません。F-35と同等か、もしくはそれ以上に巨大なシステムとなるでしょう。しかも、たった一度の判断ミスさえ許されません・・・。デベロッパーにはこの巨大なシステムからバグを撲滅し、継続的にアップデートし続ける責任が生じます。オープンなネットワークに接続するのであれば、ハッキングされないようセキュリティアップデートも継続する必要があります。
システムのアップデートはF-35計画を大きく遅延させる深刻な問題となっています。2016年に日本向けに出荷されるF-35には正規版が間に合わず、代わりにベータ版のシステムが搭載されます。自動運転システムでも、緊急性の高いアップデートでも開発に時間が掛かってしまう可能性があります。ですが、全車を走行停止にする権限は誰にもありません・・・。
果たして、それは実現するのか。
ナビで目的地を選べば、ドアtoドア。そんな自動運転システムをイメージする方も多いでしょう。しかし、2020年に実際に登場するシステムはもっと現実的なものです。使用できる道路環境、シチュエーション、速度域が限定され、手放し運転は依然許可されないでしょう。あと4年では実証実験が不十分であり、安全を担保できるほどの確実な動作保証が難しいからです。
スバルは今年、障害物を横においた状態でプリクラッシュブレーキの比較試験を実施しました。結果は驚くべきものでした。アイサイトがカタログ表記以上の性能を発揮したのに対し、「自動ブレーキ」を謳いながらもカタログ値を大きく下回ったメーカーがあったのです。これはレーダー等の誤認に起因するもので、誤作動防止のため不完全な認識では動作しないようにしているためです。現実には、まだまだセンサー情報の処理に課題があるメーカーも多いのです。もちろん、自動運転にはもっとハイレベルな情報処理が不可欠なのですが・・・。
この状況を鑑みれば、自動運転を性急に実現しようというのは拙速というものです。全メーカーの確実かつ慎重な開発を期待したいものです。