2016年ニュルブルクリンク24時間でSP3Tクラス優勝。 [2016年06月05日更新]
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ニュルブルクリンク24時間レースとは。
世界最大の草レースと呼ばれる「ニュルブルクリンク24時間レース」は、第44回を数える耐久レースです。ワークスチームから、プライベーター、果てはファミリーチームまで、種種雑多なマシンが初夏の長い1日をエンジョイする、昔ながらの空気が残る貴重なレースイベントです。
ニュルブルクリンクはドイツ北西部に位置し、1927年に自動車研究を目的として建設された歴史あるサーキットです。オールドコースと呼ばれる北コース(全長:20.832km)、近代的なGPコース(全長:5.1km)、そして既に閉鎖された南コースで形成される、ニュルブルクリンク。ここを舞台とするニュルブルクリンク24時間は、北コースとGPコースを接続した全長25kmの特設サーキットで開催されます。
ニュルブルクリンクの特徴は、山間部の自然の地形を縫うように走るコースレイアウトにあります。全長20kmを超え、コーナー数は172、高低差は300mに達します。バックストレートでは250km/hに到達し、殆どのコーナーは見通しが悪いブラインドコーナーで、起伏に富んだコースゆえにジャンピングスポットもあります。
ここを走行する車両には、左右のコーナリングGだけでなく、ジャンプや振動による激しい縦Gにも晒されます。人間の手で設計されたサーキットと違い、自然の地形に合わせてコースレイアウトが決められているため、想像を絶する厳しい負荷が掛かるのです。その厳しい環境ゆえに「スポーツカー開発の聖地」と呼ばれ、近年は各国の自動車メーカーが最終仕上げ「ニュル詣で」に訪れることでも知られています。また、そのラップタイムはスポーツカーの性能指標のひとつともなっています。
そんなニュルブルクリンクを1昼夜走り通すというのが、世界最大の草レースと言われるニュルブルクリンク24時間レースです。
基本的には、夏祭り。
過酷なニュルブルクリンク24時間ですが、実際にはとことん牧歌的なイベントです。はるばるニュルブルクリンクに集った人々は、それぞれ思い々々にBBQ三昧の週末を過ごすのです。コース脇にクルマを停めてテントを張り、ウィンナーを肴にビールを浴びるほど飲む。顔を真っ赤にして寝転び、駆け抜けるエキゾーストノートを子守唄に眠り込む。過酷さとは無縁の週末がそこにはあります。
この牧歌的な雰囲気は、観客だけではありません。今では少なくなりましたが、どう見てもマイカーといった風情のセダンに、カーナンバーを貼り付けただけのクルマも出場しています。ゴール後は、そのまま家族でクルマに乗り込んで家路に着く。そんな風景は、もはや定番となっています。
この辺りが、世界最高峰の耐久レース「ルマン24時間」と異なる所以です。ルマンは、今や完全にファクトリーチームが全面戦争する戦場であり、24時間を全開のまま駆け抜けるという厳しい闘いがそこにはあります。
WRX STIが、2年連続4回目のSP3Tクラス優勝。
スバルはSTIを通じて、このニュルブルクリンク24時間に今年も参戦。マシンは全て内製とし、メカニックに選抜ディーラーメカを据えるなど、人材育成と市販車開発を柱に据える参戦スタイルを今年もキープ。基本メカニズムを変えずに進化を続けてきたマシンは、年々熟成を重ねてきています。国内での事前テストで大クラッシュに見舞われたマシンを見事にリペア。しっかり、レースに間に合わせてきました。
予選は、順当にクラス2位。午後3時半に決勝のスタートが切られると、WRX STIは手堅い走りで序盤から順調にラップを重ねていきます。午後5時半、史上初となる雹による赤旗があり、コース上は大混乱。WRX STIもこの混乱の中、あわやの場面に遭遇するも「奇跡的」にこれを回避。レース再開は4時間後の午後7時20分。荒れるコンディションの中、4WDのWRX STIはハイペースを維持しつつ中盤を迎えます。真っ暗闇の中、クラス1位、総合25位前後をキープしつつ、ノートラブルで走行を重ねていきます。ずっと同一周回でWRX STIをマークしていた、クラス2位の104号車Audiは終盤にリタイヤ。最後まで危なげない展開で、見事24時間を走り切ったWRX STIは最終的に総合20位でチェッカー。2年連続4回目のSP3Tクラス優勝を飾っています。
変わり始めたその様相。隠れワークスが繰り広げるトップ争い。
90年代以降、ドイツの各メーカーはDTMやADACカップに出場するマシンを参戦させてきました。もっとも、それは技術開発やプロモーションをメインとした参戦でしたから、勝ち負けに拘らないお祭りスタイルでした。しかし、2000年代に入ってルマンの参戦コストが急騰すると、メーカーは徐々にニュルブルクリンク24時間に注目し始めます。
2016年、ワークスサポートを受けるGT3は6~8台に達しました。彼らは、ルマンのようにニュルブルクリンク24時間を全開で走り続け、最後に残った4号車と29号車がラストラップまで激闘を演じました。古き好き「ニュル耐」の面影はそこにはありません。プライベーターの祭典と言われるニュルブルクリンク24時間ですが、残念ながらそのスタイルを変化させていくことになるでしょう。
本来、GT3はパフォーマンス調整を行うことで開発の意図を奪い、販売価格を6000万円以下としてコスト制限を課すという、プライベーターのためのカテゴリーとして作られました。これは、WEC(ルマンを含む)やIMSAで継続しているGTEクラスの開発競争が苛烈になったため、その反省を含んだものです。
現在のところ、GT3はプライベーターでも成功できるカテゴリーとして、世界各国で盛り上がりを見せています。日本のSuperGTやS耐だけでなく、ヨーロッパのブランパンGTシリーズ、北米のIMSAの他、アジアでもシリーズは好調です。その背景には、誰でも購入でき、誰でも扱えるという、手軽さにあります。買ってスグにトップレベルで戦える、プライベーターのためのお祭り。それが、GT3の魅力です。
にも関わらず、今年のニュルブルクリンク24時間が呈した様相は全く異なるものでした。明らかなワークスサポートを得たマシン達は、手練のドライバーの手によって驚愕のペースで走り続けたのです。これでは、GT3の本来意義は破壊されてしまいます。この傾向は警戒されることはあっても、歓迎されるものでは無いでしょう。
やはり、総合優勝を狙ってほしい!
日本勢のうち、トヨタとスバルは昔ながらのプロモーションメインのスタイルでの参戦となりました。総合優勝を狙うことなく、自らのベストを尽くす。そんな戦い方でした。そんなスタイルは、国内でも次第に認知されつつあります。一方の日産GT-Rは総合優勝を狙えるST9でエントリーしたものの、車高と車重がハンデとなって苦戦を強いられました。
今回総合優勝を争う中には、日本勢の姿はありませんでした。レースに詳しくない方が見れば、「日本車って大したことないな。」「性能的には、まだ二流なんだな。」と感じるかも知れません。「ドイツ勢>日本勢」との図式が成立しかねないのです。これは、充分懸念に足る事実です。結果的に、マイナスプロモーションともなるでしょう。
80年代のように「技術に勝る外車に立ち向かう、挑戦者たる我が日本車」という図式は過去のもの。トヨタは今や世界に冠たるメーカーであり、GT-Rやインプレッサは海外では今や伝説となっているのです。メーカーの名でエントリーするからには、決して「遅い」というのは許されないことなのです。ニュルブルクリンク24時間は、確かにお祭りイベントかも知れません。しかし、今や時代は変わってしまったのです。
今年参戦を開始したBTCCでは、明らかに不利なワゴンボディでは早くも優勝を遂げています。ハンデを物ともしない戦い。この姿は、後に伝説となっていくことでしょう。