ボクサーディーゼル国内投入はあるのか? [2017年03月15日更新]
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スバルは、なぜディーゼルを国内販売しないのか。
欧州を中心に爆発的に普及した、新世代ディーゼルエンジン。スバルもEE20型という2.0Lのディーゼルターボを生産しており、欧州では「ボクサーディーゼル」の購入が可能です。旧型XVでも、欧州向けにはディーゼル版が用意されていました。
果たして、新型XVにもディーゼルは用意されるのでしょうか?
ボクサーディーゼルを国内販売するつもりはないのでしょうか?
そんなご質問をお客様から数多く頂戴しています。結論から申し上げますと、スバルがディーゼルエンジンを国内展開することはありません。それは、ディーゼルエンジンには「欠陥」があるからです。
トルクフルで熱効率に勝るディーゼル。
圧縮した混合気を火花点火で燃焼させるガソリンエンジン(オットーサイクル)と違い、ディーゼルエンジンは圧縮した空気に燃料を噴射して自然発火させます。空気を圧縮するが故に、異常燃焼の心配がありません。その分、圧縮比を高く設計できるため、熱効率がガソリンエンジンより高くなります。
また、大きな過給器を用いて高い過給圧を掛けても、これまた異常燃焼の心配がありません。ディーゼルは過給器と組み合わせて、さらに高い熱効率を得ることが可能です。高い熱効率を活用して排気量を絞れば、出力を維持しつつ燃費向上も図れます。一石二鳥という訳です。
大型トラックで見れば、排気量がかつて16L程だったものが、最新のエンジンでは8L弱までコンパクト化されています。同じ出力を、半分のエンジンで得られるようになったのです。
最新のディーゼルは、高圧で燃料噴射することで細粒化を実現するとともに、1行程に複数回の燃料噴射を実施。燃料揮発時の気化潜熱を使って混合気温度を下げ、充填効率を高めています。大型車での技術革新を適用したのが、近年の乗用車用新世代ディーゼルエンジンです。
「クリーン」ディーゼルは、真っ赤なウソ!?
意外に知られていないことですが、欧州は「脱ディーゼル」へ向けて既に動き始めています。ですから、スバルが今後次世代ディーゼルを開発する意味合いもまた、薄れてきているのが現状です。2016年には、パリ市長は市内からディーゼル車を締め出す!と突如宣言。パリでは、深刻な大気汚染と歴史的建造物の汚損が社会問題化しているのです。
その原因は、ディーゼル車の排ガスにあります。現代のディーゼルは、クリーンディーゼルだから問題ない!と思われますが、そうではありません。クリーンなのは、過去のディーゼルに比較してのこと。「クリーンディーゼル」の排ガスは、ちっともクリーンではないのです。
少々古いガソリンエンジンの方が、排ガスはクリーン。一時期話題となった、PM(粒子状物質)やNOxの排出量は圧倒的にディーゼルの方が多いのが現実です。ディーゼルは、CO2排出や燃費ではプラスですが、大気汚染の面ではマイナスなのです。
エコなのは、燃費だけ。それが、クリーンディーゼルの真実。
ディーゼルは、熱効率が高いためそもそも燃費は優れています。同じ燃費であれば、より高いパフォーマンスを発揮できます。一方で、ディーゼルエンジンは常に排ガス規制と闘い続けてきました。
軽油をシリンダー内に高圧噴射して自然発火で燃焼させる、ディーゼルエンジン。燃料噴霧が十分細粒化できていないと、燃え残りが発生します。大気汚染の原因となるPMです。このPMを削減すべく高圧高温燃焼を志向すると、今度はNOxが盛大に発生します。ディーゼルエンジンは、常にこのジレンマと闘い続けているのです。
そこで登場したのが、2つの方式です。
1つ目は、NOx最小限の条件で燃焼させて、盛大に発生するPMをフィルタでトラップして除去ようという方式。このタイプのマフラーをDPFと呼びます。貯めたPMは時折排気温度を上げて、燃やし切ってしまいます。
2つ目は、PM最小限の条件で燃焼させて、発生したNOxをアンモニアと触媒で反応させて除去する方式で、尿素SCRと呼ばれます。この方式では、アンモニアの原料となるAdBlueという尿素水を継続的に補給してやる必要があります。
近年のトラックでは、双方を併用する方式が増えつつあります。ところが、この排ガス処理装置が原因のトラブルがものすごい数で発生していることをご存知でしょうか。
特に、DPFが詰まるトラブルは日常茶飯事。弊社でも、週に3台程度は必ずDPFの詰まりが原因でトラック・バスが入庫してきます。堆積しだしたカーボンは、至る所に悪影響を与えます。最悪の場合、マフラーやEGRバルブ、ターボ交換などの高額な修理に至ります。
どういった走行条件のディーゼル車が、トラブルを起こすのか。
弊社では、お客様の所有車両やディーラーからの外注修理車両を含め、月に数百台のトラック整備を行っています。そこで見えてきたのは、カーボン堆積のトラブルを起こす車両には特定の走行条件があるということです。
それは、平均走行速度が遅い走行条件の車両。つまり、渋滞やストップアンドゴーの多い条件で使用する車両です。アイドリング時間が長いため常用エンジン回転が低く、排気温度が上がらないのが原因です。排気温度が低いと、カーボンは排気系のアチコチにベッタリと付着して、どんどん堆積していくのです。
逆に、高速道路を長距離走行する車両では殆どマフラー関係のトラブルは起きません。排気温度が比較的高温で保たれるうえ、PMの発生量がそもそも少ないため、DPFでのPMの再燃焼(DPF再生)が上手くいくのです。
ですから、乗用車ディーゼルをご購入の際はご自身の走行条件を、よくよく考慮する必要があります。
渋滞が日常茶飯事だったり、使用頻度が少ないとか、走行距離も短い。そんな方は要注意です。また、飛ばさない方も要注意。回転が上がらないので排気温度が上がらず、ススが堆積しやすいのです。こういった条件に該当する方は、DPF系のトラブルが発生しても「ディーゼル固有の問題」だと諦めるほかないでしょう。
ディーゼルゲート事件は、起こるべくして起きた。
VWの特定のモデルにおいて、排ガス計測を行う際に意図的に基準をクリアするモードへ入るようプログラミングされていたという、ディーゼルゲート事件。直近では、ルノーにも同種の容疑が掛けられ、調査が行われているようです。
DPFを装着するすべてのディーゼル車は、DPF再生を実施してやる必要があります。再生中は盛大に白煙発生するのですが、これはもちろん排ガス基準を満たしていません。貯めに貯めたススを焼いて大気中に放出するのですから、致し方ないでしょう。ただ、「クリーンディーゼル」という言葉には大いに齟齬があるように感じます。
なぜ、欧州でディーゼルは流行したのか。
欧州で、ディーゼルがこれだけ市民権を得たのはどうしてでしょうか。もし、国内のトラックのようにカーボン堆積のトラブルが多ければ、ディーゼルが流行することはなかったはずです。
それは、欧州と日本では走行条件がまったく違い、日本よりも遥かに平均走行速度が高いことが関係しています。欧州は渋滞も少ないうえ、MTで使用するため常用回転域も高く、排気温度が高く保たれます。そのため、カーボンが堆積しにくいのです。
東京では20km/hに満たない平均走行速度が、パリでも26km/h、ミュンヘンでは35km/hに達します。これだけ使用環境が違うと、エンジンの使用回転域も排気温度も相当に違ってきます。
そもそも、日本は新世代ディーゼルには向かない道路環境なのです。