スバルとSTI、2018年モータースポーツ活動計画を発表。 [2018年02月14日更新]
ニュース ピックアップ [ モータースポーツ STI WRX ]
2023年ルマン24時間総括。トヨタの連勝記録途...
2023年07月23日 スバル
2023年初夏、注目の世界三大レースとニュル24...
2023年05月26日 スバル
レヴォーグ/S4が年次改良で、C型に進化。...
2023年01月08日 スバル
フォレスターがE型に進化、STI Sportが待...
2022年07月03日 スバル
2022年ルマン24時間。トヨタ完勝の陰にあるも...
2022年06月17日 スバル
2022年ルマン24時間。間もなくスタート。トヨ...
2022年06月11日 スバル
スバルは、ニュルブルクリンクに何を求めたのか。...
2022年06月07日 スバル
SOAがプレスリリースを公開。次期WRX STI...
2022年03月24日 スバル
スバルとSTI、2018年モータースポーツ活動計画を発表。
2月9日、スバルとSTIは2018年のモータースポーツ活動について、発表を行いました。2018年のワークス活動は、GT300へのR&D SPORTと共同での参戦と、ニュルブルクリンク24時間レースへの参戦のみとなります。
昨年と比較すると、北米開催のグローバルラリークロスが削除されています。ラリークロスは近年急速に注目を集める最新のカテゴリー。WRCのスーパーSSのようなスタジアム特設コースを、複数のマシンで順位を競います。観客は、ラリーの走りとハコ車の熾烈なバトル、その両方を愉しめるとあって、人気急上昇中です。
2017年シーズン、STIはスバル・オブ・アメリカ(以下、SOA)を通じて活動支援を実施していました。コンパクトクラスが体制を占める中、大柄な4ドアセダンのWRXは明らかに場違い。ポテンシャルに相当のハンデがあったのでしょう。スバルは貴重な活躍の場から、ひっそりと姿を消します。
スバルは、なぜWRCに出ないのか?
スバルがこの世の春を謳歌していた2000年、スバルとProDriveは画期的なWRカーを造り上げました。WRC2000と呼ばれたそのラリーカーの最大の特徴は、徹底的な低重心設計にありました。それまでのGr.Aでは車両規定上不可能でしたが、WRカー規定に刷新されたことで大幅な改造が可能となったのです。
水平対向エンジン特有の低重心と、左右完全バランスの重量配分が、素晴らしいドライバビリティを発揮。インプレッサWRC2000は、世界最高のラリーストに操られて、華々しい黄金期を築き上げていきます。
さらなる強さを見せるスバルに対抗すべく、ライバルメーカーたちはWRカーを急激に進化させていきます。
まず、フォードが「なんちゃってドライサンプ」を発明。エンジン下部のオイルパンを廃止して、その分エンジンを低くマウント。横置きFF車をベースとするラリーカーは、一気に低重心化します。
そして、更なる進化がスバルにトドメを刺します。シトロエンは、極端なエンジンの後斜マウント+前方吸気・後方排気を発明。横置き直4ターボを大きく後ろに傾斜させて極限まで低くマウントしつつ、その隙間にトランスミッションを配置。そのメリットは低重心化に留まらず、ヨー慣性モーメントを大幅に低減。シトロエン・クサラWRCは、圧倒的なパフォーマンスでWRCを席巻。絶対王者ローブを擁して9連覇を達成します。
ところが、急激なWRカーの進化にスバルは追従できませんでした。水平対向の場合、最下部にはエキゾーストがあり、オイルパンを廃してもマウント位置を下げられないのです。
更に、スバルはフロントデフの配置上、フロントオーバーハングにエンジンをマウントせざるを得ません。ヨー慣性モーメントは改善の余地もなく、これ以上の低重心化も不可能でした。プジョーが先鞭を付けた進化から、スバルは完全に取り残されてしまったのです。
2007年を以って、スバルは成績不振のまま、静かにWRCから去っていきます。
そもそも、WRCに出られないスバル。
圧倒的なシトロエンの強さを前に、FIAは2011年にWRカー規定の大幅なコストダウンを実行。デフや主要部品の共通化の他、エンジンはGRE(Global Race Engine)規定に準じた、1.6Lの直4直噴ターボを指定。全長3,900mm、全幅1,820mm、最低重量は1200kgと定められました。
この規定の結果、参戦車両はすべてサブコンパクト化。小さなラリーカーがクルクルッと走る姿は、まったく迫力に欠けていました。そこで、2017年以降はパワーを400ps級まで緩和し、エアロパーツも大幅に規定を緩めることで、荒々しさを取り戻します。それが現在のWRCの姿です。
トドのつまり、スバルは現行のWRC規定に適合するベース車両を持っていないのです。そもそも、参戦不可能だということです。ただ、カテゴリーの維持に腐心するFIAですから、スバルが呼び掛ければ可能性はゼロではありません。しかし、勝とうと思えば、水平対向を放棄せざるを得ません。スバルがWRCに挑戦した理由は、スバルの独自技術の優秀性を証明するのが目的でした。直4を使ったのでは、却って逆効果になってしまうのです。
ですから、スバルはWRCに戻れないのです。
スバルのモータースポーツが、向かうべき先は?
WRCがムリならば、今後スバルが参戦すべきカテゴリーとは何でしょうか?
スバルのメイン市場は北米ですから、活動の中心もアメリカに置くべきです。つまり、そのカテゴリーが北米で人気があるのが必須条件です。そう考えると、F1やLMP1、DTM/GT500、WRC、TCRは選外となるでしょう。
北米のモータースポーツの頂点は、Indy500とNASCARです。しかし、水平対向ではムリですし、四輪駆動も絶対に不可。スバルのアイデンティティに即しているとも言えません。
次点に挙げられるのが、スポーツカー選手権のデイトナ24時間とセブリング12時間です。プロトタイプカーで競われるDPiというクラスを頂点に、市販車ベースのGTEとGT3が参加しています。
プロトタイプカーのDPiクラスには、ACURA、日産、マツダが今年から参戦を開始し、盛り上がりを見せつつあります。ただ、LMP2との兼ね合いから、現時点では欧州上陸は不可能です。
市販車ベースのGTEとGT3も、充分に魅力的です。GTEであればルマンへ、GT3ならばニュルブルクリンク24時間へ、幅広くチャレンジが可能ですので、一気に参戦の幅が広がります。
スバルにとって最適なカテゴリーは、ミニマムコストで最大限の効果を得ることです。ならば、日本や欧州でも使えるのがベスト。そう考えると、ベストはGT3でしょう。
ベストは、日米欧で走れるGT3。ただ、問題が・・・。
GT3は、お金さえ払えば誰でも購入可能なレーシングカーです。よって、GT3はその販売によって単体で事業の黒字化が可能です。当然ながら、その為にはポテンシャルを証明しなくてはなりません。特に注目が集まるニュルブルクリンク24時間は、各メーカーのセミワークスが集う激戦となっているのは、ご存知の通りです。
ところが、GT3にはBoP(Balance of Performance:性能均衡)という大切な決まりがあります。スタイルも価格も様々なGTカーが同一条件で競えるように、パフォーマンスが厳密に管理されているのです。この規制を如何に理解して、カスタマーに最高のポテンシャルを提供できるか、がミソとなってきます。
ただ、問題があります。
スバルには、GT3に適当なベースモデルがありません!
となると、作るしかありません。それは、現代版の「SVX」となるでしょう。ライバルの動向を見る限り、既存の4気筒ターボでは明らかに役不足。最低でも4L級6気筒ターボは必須です。市販モデルは、ハイパフォーマンス版で500ps弱の出力となります。市販車では当然AWDとしつつ、GT3版ではFRとなるでしょう。
GT3を手に入れたスバルは、いよいよニュルブルクリンク24時間で総合優勝を争うことになります。AMGやAUDI、ポルシェ、BMWといった手強いライバルに闘いを挑むのです。多くのスバルファンが、24時間スマホに釘付けとなることでしょう。
夢のようなハナシですが、セミプレミアムブランドとしてのブランド力を身に付けるには、それだけの出費は不可避です。現状のスバルは、20年前のWRCの遺産でブランド力を維持しているに過ぎないのです。
リスクミニマム・出費ミニマムなら、ダカールラリー。
かつて、WRCとダカールラリーは密接な関係にありました。WRCで現役を終えたマシンをベースに「パリダカ」仕様を作っていたからです。ポルシェ、プジョー、シトロエン、そして三菱。彼らは、砂漠の王者として不動の地位を確立してきました。
ダカールラリーの最大の魅力は「分かりやすさ」にあります。巨大なタイヤを履いて、砂丘に闘いを挑んでいくその姿は、誰が見ても「タフ」で「ワイルド」です。SUVを主力とする現在のスバルにとって、うってつけのカテゴリーと言えるでしょう。しかも、アメリカ人はこういうタフなイメージは大好物。しかも、現在は舞台を、南北のアメリカ大陸に移しています。
フォレスターか、アウトバックか、クロストレックか。ワイルドなダカール使用は、タフさを好むアメリカ人に大きなインパクトとなるでしょう。また、日野とトヨタ車体が長年継続参戦しているお陰で、日本での知名度も充分。まさに、申し分ないカテゴリーと言えます。
今年、ワークスプジョーに真っ向勝負を挑んだ南アフリカトヨタのハイラックス。見事に総合2位を獲得しており、完全なるファクトリー体制でなくとも優勝も不可能ではありません。さらに言えば、かつてのパートナーであるプロドライブは、アストン・マーティンレーシングの活動の一切を担っていますが、ダカールラリーでは活動していません。ダカールラリーならば、再びタッグを組むことが可能です。
兎にも角にも、決断次第。
モータースポーツは、それ単体では確実に赤字です。しかも、その額は年々高騰しています。アマチュアスポーツの活動支援とは一桁も二桁も違う投資が必要です。それでも、クルマそのものが輝き、クルマそのものが伝説となれるのは、モータースポーツ以外にありません。
世界に拡がるスバルファンたちは、ブルーのマシンが輝く瞬間を今や遅しと待ちわびています。その期待が、カタチになる日はいつ訪れるのでしょうか。