自動車史上、最大の危機。今、時代が求める自動車とは。 [2020年07月31日更新]

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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

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担当:余語

 

華やかな時代から一変。自動車産業は、存続の危機に直面。

新型コロナウイルスの猛威により、CASE時代へ向けて華やかな話題に包まれていた自動車産業は、2ヶ月間の創業停止という前代未聞の窮地に陥りました。このような時代にあって、消費者が自動車に求めるものは何でしょうか。自動車産業は、何を希求していけば良いのでしょうか。

各自動車メーカーは、20年後の未来よりも、当面の生存が課題となっています。日産は2021年3月期の連結決算見通しで、最終利益が6700億円の赤字になる見込み。VWが発表した1−6月上半期の決算では、営業損益が8億ユーロもの赤字。結果的には、2020年上半期の世界販売で、6年ぶりにトヨタが首位となる公算が強まっています。

一方、中国は中央政府の強権により、新型コロナウイルスの早期封じ込めに成功。経済をいち早く回復軌道に載せたものの、強気な覇権主義が国際的孤立を招き、米中対立は日に日に深刻化。自動車産業がいつまで中国でビジネスを継続できるのか、まったく余談を許さない状況となっています。

ここまでの状況に追い込まれれば、シナジー効果とか、業務提携などと呑気なことは言ってはいられません。明日の利益よりも、今日の利益。自動車メーカーの経営視点は、どんどん近視眼的にならざるを得ないでしょう。

 

先の見えない日々。不安な状況下では、人々は安心を求める。

今、人々が何よりも求めるもの。それは、命の安全です。新型コロナウイルスの猛威に晒され、人々の心は自粛と不安で押し潰されそうになっています。かくいう小生も、実家のある東京に今暫く帰省できそうにありません。人々は自由を奪われながら、先の見えない日々を過ごしています。それは、凄まじいストレスです。

こうした時代にあって、人々は何を求めるのでしょうか?真っ先に求められるもの、それは、「不安の解消」です。「最高の安心」とも換言出来るでしょう。地に足が着かない不安な毎日。ドッシリとした盤石の岩盤を欲するのは、自然な心情と言えるでしょう。生活の中に潜むリスクを軽減・解消し、未来の安定を希求するような商品・サービス。それが、今時代が求めているものです。

では、クルマに求められるものは何でしょうか。それは、クルマを保有するに際して生じ得るリスク。これを極限するような、メカニズムとサービス。これこそが、アフターコロナの世界で求められるクルマの姿でしょう。つまり、CASEで具現化されるクルマ像とは、大きく違ってきているのです。

 

減り続ける可処分所得。求められる価格先行型のサービス。

これまでも自動車メーカーは、最高の安全性を求めて技術革新を続けてきました。その成果は漸くカタチになりつつあり、全方位予防安全、レベル2の自動運転や自動駐車機能など、その幾つかは既に実用化段階を迎えています。しかし、これに付随して、車両価格は天井知らずで上昇し続けています。

ここで勘違いしてはならないのは、アフターコロナで求められるクルマは、何から何までてんこ盛りの価値先行型では無いということです。価値先行型では、価格上昇もセットです。ところが、新型コロナウイルスの影響により、家庭の可処分所得は大いに減じていますから、価格上昇は消費者のまったく望む処では無いのです。

ただ、お金がまったく無い訳でもありません。不景気では、消費者は「品定め」に一層慎重になります。安いけれども、ちゃんと価値のあるものを求めるのです。あくまで、財布の紐が堅くなっているだけなのです。よって、求められるのは価格先行型の商品・サービスです。

回転寿司店やファストファッションなどは、その象徴的事例と言えるでしょう。これらは、長い平成不況の時代に誕生した新たなビジネスモデルで、安いけれどもより高い満足を得られるサービス。それは、クルマにも当てはまるはずです。

 

消費者の求める価値、メーカーの提供したい価値。その不一致が崩壊を招く。

日本の白物家電が凋落の一途を辿ったのは、技術成熟期に他社との差別化を焦るあまり、消費者の求めていない機能充実に注力した上で、価格に転嫁してしまったからです。その結果、売れ筋商品は価格が安い海外製品に移行してしまいました。これに焦った国内メーカーは、過剰な値下げ競争に突入。採算性は惨憺たるものとなっています。

原因は、只一つ。ビジネスの主人公に、メーカー自身を据えてしまったことです。メーカーはその道のプロで、消費者は素人です。プロの求める価値と、素人が求める価値が違うのは、極自然なことでしょう。メーカーが希求する価値は、時として消費者の求める価値と乖離してしまうのです。

液晶TVなどは、その典型例でしょう。同じ予算ならば、日本製の方が映像が確かにキレイだけれど、海外製の方が画面が圧倒的に大きい。ところが、その画質差が素人には気にならないレベルなら、画面の大きい方を選ぶのが消費者心情というものでしょう。消費者が重視する価値は、大画面ならではの迫力であって、高精細な画質では無かったのです。

メーカーは様々な機能を追加して、差別化を図ると共に、価格転嫁によって利益率を向上させねばなりません。ただ、これはメーカーが主人公の視点であって、消費者にとっては「どーでもイイこと」なのです。そのズレが、価格と価値のバランスを崩壊させ、ビジネスモデルを破壊するのです。

 

技術的転換期を迎える自動車産業。メーカー自身が主役になってはダメ。

翻って、クルマはどうでしょうか。価格と価値のバランスは維持できているのでしょうか。メーカーの提供したい価値ばかりを追加して、価格を吊り上げていないでしょうか。残念ながら、自動車産業はその方向に突き進んでいるように思えます。

今、自動車メーカーが必死に実用化を目指しているレベル2自動運転。それを使う頻度は、一体どれ位でしょう。現在の技術では、その利用は高速道路上に限られています。となると、その使用頻度は、高速道路の使用頻度に依存します。もし、その機能が+50万円程の価格となるとして、1回当たり幾らになるのでしょうか?その価格と価値は、バランスが取れているでしょうか?

もちろん、レベル2自動運転の先に、人類が求める完全自動運転技術は存在します。ですから、レベル2自動運転の実用化と、リアルワールドでの検証は絶対不可欠です。技術の積み重ねがあってこそ、安全な自動運転技術は確立されるのです。しかし、それはメーカー自身が主人公になった論理ではないでしょうか?消費者は、それを求めているのでしょうか?

「そんなに高いのなら、要らないや。高速道路、余り使わないし。」そう、消費者は答えるでしょう。消費者にとっては、技術的検証云々は「どーでもイイこと」なのです。特に、アフターコロナの厳しい状況下では、その傾向は顕著となります。価格と価値のバランス位置が、景気低迷の作用により下方修正されるからです。

自動車産業はCASE時代の技術について、アフターコロナの景気長期低迷を前提に、価格と価値のバランスを再考する必要があるでしょう。

 

自動車のファストファッション化。希求すべきは、消費者の望む「新しさ」。

はてさて、今求められているクルマとはどんなものでしょうか。

その参考となるのが、ファストファッションです。奮発して買い揃える一張羅ではなく、アレコレ買え揃えられるリーズナブルな価格設定。ファストファッションの出現により、人々はより幅広くファッションを愉しむことができるようになりました。ファストファッションは、明確にファッション自体の可能性を広げたのです。同じことは、回転寿司店にも言えるでしょう。誰もが中トロを食べられるなんて、それ以前は考えられないことだったのです。

では、ファストファッションのようなクルマとは、どのようなものでしょうか。まずは、低廉な価格です。誰もが好みに合わせて、アレコレ買い替えられる価格設定。大凡、200万円程度が相場でしょう。クルマという製品価値を求めなければ、技術的洗練は重要視されないので、自然と価格と価値のバランス位置は下がるはずなのです。

次に、先進性とファッション性です。「あ、それイイね!」と言って貰えるだけの「分かりやすい新しさ」が必要です。その「新しさ」とは、自動車産業側から見た技術的先進性ではありません。あくまで、消費者目線での「新しさ」です。デザインだけに留まらず、機能性や存在そのものにも「新しさ」を表現していかねばなりません。

そして、必要にして充分な性能です。自動車という存在は、今後二分されていくはずです。本来あるべき自動車像を希求する高価格帯のクルマと、移動の楽しさを表現するモビリティとしての存在です。そのモビリティとしては、性能云々は重要ではありません。一通りちゃんと走れば、それで良いのです。それよりも求められるのは「新しさ」なのですから。

 

「売れるクルマを作る」のではなく、「人々の生活を楽しくする」という信念。

日本の軽自動車は今、機能性に主眼を置いて開発されています。居住性・積載性・利便性・経済性と言った観点です。ところが、そこには「新しさ」はありませんし、「オドロキ」もありません。何処か「ツマラナイ」のです。それは、デザインに目新しさはあっても、存在(=機能)自体に新しさが無いからです。

だからこそ、ジムニーはヒットしたのでしょう。ジムニーというイコンは、プロ目線では伝統の継承であっても、一般消費者から見れば、「新しさ」だったのです。居住性も悪く、詰める荷物もソコソコで、夏は暑くて、冬は寒い。でも、何処までもタフで、全身からホンモノ感が溢れています。不便でも、消費者にとってはそれこそがジムニーの価値なのです。

かつて、日本を席巻したミニバン。しかし、もう目新しさはありません。フルモデルチェンジしても、カタチが変わるだけで、存在そのものが変容する訳では無いからです。そういう存在には、消費者は既に飽き飽きしているのです。SUVは、ミニバンの代わりでしかありません。数年内には、SUVとて飽きられてしまうことでしょう。売れるクルマを作る、それではメーカー側が主人公になってしまっています。

ソニーのウォークマンのように、アップルのiPod・iPhoneのように、時代を変えたい。人々の生活をもっと楽しくしたい。その瞬間、主人公は消費者でした。そうした信念がない限り、クルマというビジネスモデルは衰退の一途を辿ることになるでしょう。

 

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