新型レヴォーグ[VN型]特集:その2 CB18型エンジンの技術詳細を徹底解説。 [2020年10月25日更新]
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既存エンジン技術を放棄し、ゼロから開発された新世代エンジンCB18。
新型レヴォーグに搭載される、次世代主力エンジンCB18。第1弾では、その技術的背景からリーンバーンターボに至った理由について解説しました。今回の第2弾では、CB18の技術的詳細について見ていきましょう。
CB18のコンセプトは、実用領域に於ける出力及び燃費改善、つまり熱効率向上にあります。そのために採用したのが、リーンバーンターボです。極端に低い空燃比により混合気の比熱比を下げ、燃焼温度を可能な限り下げることで冷却損失を減じ、熱効率改善を図っています。また、ロングストローク化により燃焼室表面積を縮小し、冷却損失を可能な限り抑制。その一方、燃料噴射量の絶対量が少ないことを補うために、高い過給圧と圧縮比により、リーンバーン時の実効トルクを確保。リーンバーン領域の拡大を図っています。これら新技術の投入によって熱効率を徹底的に改善、リアルワールドに於ける実燃費の向上を狙ってまとめ上げられたのが、CB18です。
スバルはこれらコンセプトを具現化するに際し、既存のエンジン設計はすべて放棄せざるを得ませんでした。そう、CB18は完全にゼロから設計された、真の次世代エンジンなのです。
+200ccなのに、たった+7ps。ただ、トルクは+12.5%。2000rpm以下を徹底的に磨き上げる。
ところが、スバル渾身の力作にも関わらず、CB18の詳細が公開されるや否や、SNS上では悲喜交交・丁々発止・喧々諤々、様々なメッセージが飛び交いました。その要因は、カタログスペックにありますした。+200ccにも関わらず、+7ps?JC08モードで+0.5km/L???
+200ccならば、排気量は+12.5%。だったら、ps/Lを考慮しても190psは固い。期待を込めて、200ps。。。いや、1.6Lと2.0Lの中間の仕立てならば、230psくらい??そんな期待をしたファンの方々も多かったのでしょう。177psという数値が、期待胸高鳴る心境には受け入れ難いものだったのは、間違いありません。
ただ、177psという最大出力だけでエンジンの実力を測るのは、早計というもの。最大トルクで見れば、250Nから300Nへ20%という充分な進化を遂げているのですから。12.5%の排気量upで、20%のトルク向上。156Nm/Lから167Nm/Lへ、実に+6.7%の性能向上を遂げています。車両重量は大凡+10kg程度ですから、車両全体のパッケージでは確実にパフォーマンスは向上しているはずです。
また、トルクカーブを見れば判然とするように、その力点はより低回転域にシフトされています。1200rpmほどでトルクは既に200Nmを超え、1600rpm以上で最大トルク300Nmを維持します。FB16DITと比較すれば、1000〜2000rpmでは、1.5倍近いトルクを発揮していることになります。その一方で、3600rpm以上では早くもトルクは落ち始め、5000rpm以上ではFB16DITとほぼ変わらぬトルクしかありません。
スバルは明確な意志と哲学を以て高回転域のトルクを捨て、2000rpm以下の「常用回転域での実用トルク」に力を注いだのです。確かに、レヴォーグはスポーツカーではありません。2000rpm以下と5000rpm以上のどちらに力点を置くべきか、それは言わずもがな。その結果として、最大出力は「がっかり+7ps」となったのです。つまり、+7psは低回転域の実用トルクを増強するための、「敢えて」の+7psなのです。
通常の空燃比のたった半分。λ=2というリーンバーンでの燃焼に挑む。
第1弾で記したように、リーンバーン時は絶対的な燃料噴射量が少ないため、充分なトルクは得られません。故に、旧世代リーンバーンエンジンは、実用上は殆どストイキ燃焼に頼っていました。それは、マイルドハイブリッド車がモータのみで走れないのと似ています。実効的効果は、実際には限定的だったのです。
CB18では、リーンバーンに過給を加えることで、実用トルクを確保。これにより、リーンバーン領域を負荷率40%・2400rpm以下の領域にまで拡大しています。つまり、国道バイパスのような低負荷巡航であれば、殆どリーンバーンで走行できるということになります。
では、一体どれだけリーンバーンなのかと言えば、λ=2。λとは空気過剰率を示すもので、空燃比/理論空燃比で表されます。簡単に言えば、理論空燃比の半分の燃料噴射量で燃焼させている、ということです。ただ、λ=2という極めて薄い空燃比で安定して燃焼させるのは、並大抵のことではありません。シリンダー全体を強いタンブル流で撹拌しつつ、パイロット噴射で均一な極薄い混合気を生成。そして、着火の瞬間に再び燃料噴射を行い、プラグ周辺に理論空燃比領域を瞬間的に形成せねばならないのです。その制御は、相当緻密かつ用意周到でなければならないでしょう。スバルは、この画期的なリーンバーンの実用化によって、熱効率40%を達成しています。
ただ、リーンバーンの実験用エンジンならば、これでOK。ところが、実用エンジンともなると、話はそれだけに留まりません。そもそも、最大トルク300Nmはリーンバーンでは不可能。理論空燃比によるストイキバーンで無ければ、到底生み出せないのです。そのため、CB18では負荷率・回転数に応じて、空燃比をリーン(λ=2)とストイキ(λ=1、14.7:1)で切り替えています。しかも、その切替は燃焼条件に著しく関わるため、段階的ではなく二者択一で行われます。
まったく違う燃焼条件に切り替えるのですから、まるでジキルとハイド。2つの性格・理論のエンジンが、一つのエンジンに同居しているようなものなのです。それに加えて、2つの性格が切り替わる瞬間の「違和感」も問題です。トルク変化に波があっては、ドライバビリティをまったく酷いものにしてしまうからです。
スバルは、この切り替えにはセンサーを駆使してショックが生じないよう、充分心血を注いでいるとしています。
32年ぶりにボアピッチを変更。エンジン長を極限まで短縮。全面新設計で進化するカミソリクランク。
画期的な技術を実現するため、全くのゼロベースで開発されたCB18。それを如実に示すのが、ボアピッチです。今回、スバルは1988年登場のEJ型以来、32年ぶりにボアピッチを変更。これを98.6mmまで縮めています。ボアピッチとは隣接するシリンダーの中心間距離であり、これが小さいほどエンジン単体をコンパクト・軽量に仕立てることが可能です。ただ、ボアピッチが狭いと最大ボアが制限されますから、排気量拡大に制約が生じます。
第1弾で述べたように、今では1シリンダー500ccの方程式が存在しますから、多くのメーカーではシリンダーを共通設計とし、気筒数を増減することでエンジンラインナップを形成しています。ただ、スバルではそれは不可能です。水平対向エンジンを技術的個性の根幹に据えるスバルの場合、2、4、6の3種しか選択肢が無いのです。つまり、1.5L〜2.5Lの間にスバルがラインナップを形成する場合、4気筒のままシリンダー容積の増減で対応する他ないのです。
ところが、この98.6mmというボアピッチは、CB18の80.6mmでは、その間隙は18mmでほぼ限界。これ以上排気量をを拡大するのなら、ストロークを伸ばすしかありません。ところが、100cc増やすにも+5mmに達しますから、これ以上は不可能でしょう。つまり、CB型では1.8Lが最大キャパシティだということです。
ボアピッチが変われば、エンジンのパッケージングのすべてが変わります。だからこそ、CB18は完全なる新設計なのです。クランクシャフトは、FB16の397.4mmに対し、357.1mmまで短縮。エンジン全長を44mm短縮すると共に、単体重量約5kgの軽量化も実現しています。これを実現するため、キンキンに薄いクランクウェブを採用。カミソリクランクと呼ばれるその薄さを、さらに進化させています。
スラスト力を軽減し、フリクションロスを減じる。オフセットシリンダーの採用。
CB18の進化は、これだけに留まりません。シリンダーブロックの設計にも、各種新機軸が織り込まれています。スラスト力低減を目的に新たに採用された、オフセットシリンダーもその一つです。
レシプロエンジンでは、燃焼圧がピストンを押し下げる際に、コンロッドの機構上、シリンダー壁面にピストンを押し付ける力(スラスト力)が生じてしまいます。このスラスト力を減じることが出来れば、フリクションロスを低減することが可能です。
スラスト力を減らすには、可能な限りコンロッド長を伸ばし、コンロッドの最大作用角を小さくせねばなりません。ただ、コンロッド長が伸びれば、エンジン全幅が広がってしまいます。そこで、クランクシャフトの中心から、シリンダー中心をオフセットさせ、ピストン下降時のスラスト力を低減するのが、オフセットシリンダーです。
CB18では、相対するバンクを8mmずつ上下にズラして配置。ピストンに作用する燃焼圧を効率よくトルクに変換できるよう図っています。
このオフセットシリンダー採用に伴って、シリンダー配置も変更されています。これまで、スバルでは車両前方右側に1番シリンダーを配置していましたが、これを左右逆転。左側を1番シリンダーとしています。これは、左バンクが下側に8mmオフセットすると、クロスメンバーとの間にクリアランスが充分に取れないためとしています。
センターインジェクション化に伴うシリンダーヘッドの完全刷新。強力なタンブル流で、リーンバーンを実現。
シリンダーヘッドで大きく配置を変えたのが、インジェクタです。これまで、吸気ポートの下側に斜めに配置されていたインジェクタを、スパークプラグに近接する燃焼室頂点に配置。これにより、リーンバーン燃焼時の点火プラグ至近の理論空燃比領域形成を実現しています。
インジェクタのセンター配置化に伴って、吸気ポート角度を変更。より外側に倒すことで、より強いタンブル流の形成を実現しています。これに伴って不要となった、タンブル流強化用のタンブルジェネレーションバルブとインテークポート内の隔壁を廃止しています。
一方、排気ポートはマニホールド内で集合するよう配置を改めています。ターボを駆動する排気ガスのエネルギーは圧力と温度ですから、排気タービンに辿り着く間に温度が低下すれば、効率も低下します。これを早期に集合させることで、排気ガスの冷却損失を低減します。また、排気ガスの温度維持は触媒の活性化にもプラスであり、排気ガス浄化性能向上に一役買っています。
ポンピングロス低減のために、積極活用されるEGR。より大量のEGRガスを供給するため、EGRクーラーが強化されています。冷却水の流れを均一化し、内部での沸騰を抑制。加えて、冷却フィンの板厚を0.3mmと広くすることで、冷却効率を高め、高温・高流量のEGRガスへの対応が可能になっています。
リーンバーン化によるトルクの希薄化は、ターボによる過給によって補われています。ターボは常用域に於いても積極稼働しているので、インタークーラの役割は重要です。ただ、今回もインタークーラの水冷化されず、空冷のまま存置されています。
リーンバーン実現のカギを握る、NOx吸蔵還元触媒。そして、運用上のご注意。
酸素過多の状態で燃焼させるリーンバーンでは、かなりのNOxが生成されます。近代的なエンジンでは、空気をEGRガスで置き換えることで酸素の絶対量を削減。可能な限りNOx生成の抑制を図っています。ただ、それでもNOxは生成されるため、これを除去せねばなりません。ところが、既存の三元触媒は、理論空燃比より希薄な環境下ではNOx浄化率が低下するため、これ単体ではNOxを除去しきれません。そこで新たに追加採用されたのが、NOx吸蔵還元触媒です。
排気ガス中のNOxは、NOx吸蔵還元触媒内で貴金属を経由して吸蔵物質に吸蔵されます。吸蔵されたNOxは、極短時間のリッチ燃焼により生成されたCO、HCと反応。貴金属から脱離されたNOxは、N2に還元されます。
ここで厄介になるのが、ガソリン等に含まれる硫黄成分です。硫黄成分は、貴金属上で酸化された後、吸蔵材と反応。硫酸塩を生成して、吸蔵率を低下させてしまいます。この硫黄成分は、触媒が充分高温の場合には除去が可能です。ところが、低負荷運転が過度に継続すると、硫黄成分による被毒量が除去できぬまま限度を超えて蓄積されてしまいます。
この状態が継続すると、NOx吸蔵還元触媒は再生不能となってしまいます。
そこで、CB18には取扱い上の注意事項が設けられています。NOx吸蔵還元触媒を健全に維持するために、定期的な高負荷運転を求めているのです。もし、極端な低負荷運転が1.8万キロ以上継続すると、硫黄成分の蓄積量が一定量を超えるため、ユーザーインフォメーションが表示され、販売店へ入庫の上で除去するよう促すように設定が成されているのです。
もし、メッセージ表示によって販売店への入庫が促されますが、これを無視した場合は触媒の有償修理が必要になる可能性があるとしています。