新型レヴォーグ[VN型]特集:その5 アイサイトXとアビオニクスとSTARLINKと。 [2021年02月05日更新]
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新型レヴォーグ特集最終弾は、アイサイトX。その機能の全貌に迫る。
スバルの新フラッグシップモデルである新型レヴォーグを象徴するテクノロジー。それが、アイサイトXです。人工衛星からの情報を得て、先進的な運転支援機能を実現する。そんなTVCFでご記憶の方も多いことでしょう。
本題に入る前に、まず注意したいのが、アイサイトXという名称の意味です。前項でも記した通り、アイサイトXは高度運転支援機能を示す名称に過ぎません。これまで「アイサイト」という名称は、予防安全システムと運転支援システムの双方を含めた機能全体の名称として用いられてきました。しかし、今回の新型レヴォーグでは機能全体の名称を「新世代アイサイト」と呼称し、これの追加機能である高度運転支援システムのみを「アイサイトX」と呼んでいます。つまり、「アイサイトX」はアイサイトではなく、ツーリングアシストの進化版なのです。
つまり、アイサイトX非搭載車と言っても、アイサイトそのものが非搭載なのではなく、高度運転支援機能だけ搭載していないという意味なのです。GT、GT-H、STI Sportの3グレードを展開する新型レヴォーグでは、各グレードに「EX」が設定されていますが、このEXが「アイサイトX搭載車」です。逆に、非EXはアイサイトX非搭載車ですが、新世代アイサイトは搭載しているのでご安心ください。
アイサイトXを構成する、多種多様な各種モジュール。
"ツーリングアシストver2"とも言えるアイサイトXは、新世代アイサイトと共通のコアユニットに加えて、各種モジュールの追加によって、その機能を実現しています。
1.アイサイトECU:新世代アイサイト共通
ヴィオニア製ユニットを新採用。但し、アイサイトX非搭載車とアイサイトユニットそのものは共通です。ver3.5まで前方約100度に限られてきた視野は、カメラ視野角のさらなる拡大に加え、前後左右のミリ波レーダの追加により360度全方位へと一気に拡大されています。これにより、交差点での右直事故や横断する歩行者等への対応が新たに実現しています。
2.ステレオカメラ:新世代アイサイト共通
ヴィオニア製ステレオカメラを新採用。カメラカバーをフロントガラスに密着させて搭載位置を前進させることで、視野を大幅拡大。さらに、カメラカバーにヒータを新設し、汚れ・曇り等のリスクを軽減しています。
3.ミリ波レーダ:新世代アイサイト共通
前後バンパーの左右コーナー部内側に、全4個のミリ波レーダをマウント。これにより360度センシングを実現します。レーダは測位・測距を同時に行えるため、単眼カメラを前後左右に追加するのに比してコストが安く済む上、情報処理が軽く済むメリットがあります。
4.GNSSアンテナ:アイサイトX専用
GNSS衛星(GPS/みちびき/GLONASS)からの信号を受信することで、現在地座標を測位します。高度な車両制御を行うため、アイサイトXの作動には最低6以上、全機能作動9〜12の受信が必須です。GNSSアンテナは、ルーフ上のシャークフィンアンテナ内にAM/FMアンテナ等と共に収納されています。
5.3D高精度地図ユニット
ナンバリングされた高速道路の道路形状及び標識に関する情報が収録されています。アイサイトXは、現在地座標から現在走行中の道路情報を呼び出し、これを基に車両の予測制御を行います。改修等により道路状況が変化すると正しく車両制御が行えないため、マップデータの適宜更新が必要です。ステレオカメラの情報と整合しない場合、アイサイトXは作動を停止します。
6. 12.3インチフル液晶メーター
複雑な制御を行うアイサイトXを安全に運用するには、車両の現在情報をドライバーが正しく把握する必要があります。そのため、車両状況をグラフィカルに表示するフル液晶メーターの装着が必須です。白線、車線、同行の接近車両の認識に加え、クルコン、レーンキープ等の作動状態、アイサイトXの使用可否など、その表示は複雑多岐に渡ります。
7.センターインフォメーションディスプレイ
アイサイトX搭載車は、フル液晶メーターと連動表示を行うセンターインフォメーションディスプレイの装着が必須となっています。2つの"ディスプレイ"は共通のGPUで処理されており、両者が常に連動して機能するよう設計されています。こちらでは、オーディオ・ナビ表示の他、各種機能のカスタマイズ等が可能です。
高精度な車両制御を実現するために。GNSS衛星から得る精度の高い現在地座標。
アイサイトXは、自車の現在座標を正確に特定することで、走行する道路の情報を詳細に把握。これを基に、先の道路情報を得て、様々な運転支援を行います。現在座標の入手はGNSSアンテナからの衛星信号受信によって行い、これを6軸加速度/ジャイロセンサーで補完しつつ、3D高精度地図ユニット内の情報と整合することで、現在地点の道路情報とその先の道路情報を得ています。
GNSSは、全地球航法衛星システム(A Global Navigation Satellite System of Systems)の略で、人工衛星から発せされる信号を用いて位置測定するものです。GNSS衛星には、米国のGPSや欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、日本の準天頂衛星システム等があり、元々は軍事目的に開発された技術です。衛星は各々原子時計を搭載していて、発せられる信号にはこの正確な時刻データに加え、衛星自身の軌道情報が含まれています。受信機は、発信時刻と受信時刻の時刻差に光速を掛けることで、衛星との絶対距離を得ることができます。この時、受信機が3つ以上の衛星からの距離を同時に測定できれば、三次元測位が可能になります。
ただ、アイサイトXが求める現在座標精度は、既存のカーナビとは一線を画するもの。そもそも、数〜数十cm単位の精度が得られなければ、車両制御は不可能なのです。そのため、アイサイトXがその機能を維持するために、GNSS衛星から最低6以上・全機能作動9〜12の信号受信を必須としています。これを、6軸加速度計及びジャイロセンサーで補うことで、現在地を高精度で測定することを可能にしています。ただ、高架下区間やトンネル等では信号受信が不充分となるため、現在座標の把握が不可能となりますから、こうした状況下ではアイサイトXはその作動を停止します。
高精度で測定された現在地情報は3D高精度地図ユニットに送られ、現在地及びその先の3D高精度地図データが呼び出されます。このデータを基に、アイサイトXは道路状況を「理解」し、最適な車両制御を行うことが可能になります。
3D高精度地図ユニットに収められた、全国の高速道路の精細なデータ。
3D高精度地図ユニットに収録されているデータは、日本全国の高速道路(ナンバリングされた路線に限る)に於ける、区画線(白線)、路肩縁、車線リンク(車線中央)及び標識の精細な三次元データ。測定用のカメラを搭載した車両を実際に走行させて収集された各種映像・センサー値から、道路形状等の情報を抽出し、これをデータ化したものです。
こうしたデータは、カーナビにも勿論搭載されています。しかし、アイサイトXはこの座標データを基に、カーブの曲率や要減速地点を「理解」し、車両を制御しますから、そのズレが数十cmにも達してはまもとな制御ができません。相当に精度の高い情報が収録されているであろうことが推察されます。
アイサイトXでは、3D高精度地図データの現在地点の道路情報と、ステレオカメラで抽出された白線等の道路形状を比較。高精度の事前測定データに、ステレオカメラによるリアルタイム情報を加えることで、より高精度かつ正確性の高い制御を実現しています。
ただ、これだけでは不十分な事態も想定されます。集中工事等で車線が減少しているにも関わらず、これを認識できないといった状況です。こうした場合に対応するため、3D高精度地図データとステレオカメラ情報の整合性が低い場合には、半恒久的に道路形状の変更あったものと判断し、高度運転支援機能の作動を自動的に停止させるようになっています。また、道路上に並べられたパイロン等を識別し、突発的な車線数減少にも対応可能としています。
道路形状は工事等により日々変化していきますから、正しい制御を行うためにアイサイトX用の3D高精度地図データは、適宜更新が求められます。スバルは、アイサイトXの3D高精度地図データの更新を4回/年設定しています。この更新データ自体は無料ですが、工賃はユーザが負担する必要があります。地図データが古い場合、アイサイトXは現在状況との整合性が無いと判断して、機能を停止してしまいますから、適宜更新する必要があるのです。
勿論、全4回すべて更新する必要があるかと言われればそうでもなく、自身の使用エリア外のみの更新であれば、パスすることも可能です。ただ、更新データの内容はリンク先にて公開されていますが、相当微に入り細に入る更新がされているようで、これだと結局毎度更新せねばならないようにも思われます。
やはり、将来的にはWi-Fi経由での自動更新が理想ですが、車両制御の基となるデータ故に、セキュリティ上の問題があるようで、その実現には今暫く時間を要するようです。
連続高速大容量処理と過酷な使用環境への対応が求められる、アイサイトユニット。
これだけ見ても、アイサイトのECUに相当な負荷が掛かることが理解できるでしょう。2つのカメラ画像を合成して立体視しつつ、探知対象物体の抽出と両側白線を認識。これを時間差で演算処理することで、各物体の距離と速度を算出。さらに、4個のミリ波レーダの探知情報を加えることで、360度全方位の脅威認識を実施。これと同時に、ステレオカメラ映像から道路状況を抽出しつつ、これを3D高精度地図データの路面情報と常に照合し続けることで、自車の現在地及びさらに先の道路情報を把握しつつ、高精度な車両制御を行っているのです。
かと言って、自動車向けECUは処理性能だけを求めれば良い、というものではありません。自動車向けECUには、スマホやPC向けのチップとは全く異なる厳しい要求が課せられるからです。
まず何よりも、その過酷な環境です。極寒の氷点下30度から直射日光で熱射される酷暑にも耐え、安定した作動を提供せねばなりません。続いては、絶対的な作動の安定性です。PCで高負荷処理を継続すると、突然応答が遅くなることがあります。こういった事は、ADASの制御では決して起こってはなりません。常に安定的な作動が求められます。そして、その安定性を「10年・10万キロ」保証せねばならないのです。
自動車技術は、今後さらにエレクトロニクス領域での依存度を深めていくことでしょう。そして、それはパワーエレクトロニクス領域にも広がっていきます。そこで問題となるのは、「修理がいつまで可能なのか。」という問題です。基盤が故障してしまっても、製造終了後10年を経過すれば、新品の供給は不可能です。複雑化した制御体系の車両は、基盤一つ故障すれば、全く「不動」と化してしまいます。鉄道車両では、10数年で故障率が上昇することを見越して、基盤交換を実施しています。これが自動車にも当てはまるならば、自動車の寿命は10数年に限られてしまうことになります。これでは、ポイ捨ての時代に逆戻りです。
SDGsを謳うからには、技術的持続可能性の追求はOEMの義務であるはず。今後、各種デバイスの規格統一などによる汎用品の代替可能性の模索などが課題となりそうです。
レベル2/ハンズオフ認可に際して、義務化されるドライバーモニタリングシステム。
一方、高度運転支援機能によって懸念されるのが、人間の煩悩。よそ見運転や居眠りなど、運転への注意が散逸している状況は、高度運転支援機能があればこそ誘発されるもの。当然ながら、これでは本末転倒。周囲の交通へのリスクは増大します。そこで活用されるのが、ドライバーモニタリングシステムです。
ドライバーモニタリングシステムは、2018年に現行フォレスターが世界に先駆けて搭載したシステムです。ナビ上に搭載されたユニットが、ドライバーの表情を認識し、個人を識別。パワーシート及びミラー位置等、ドライバー毎のカスタマイズ項目を呼び出す機能を実現しています。また、よそ見/わき見、居眠りを検知し、危険を警告する機能も搭載しています。
2020年、国土交通省は新たに「自動運行装置」を定義し、これを認可するに際してドライバーモニタリングシステムの装備を義務付けることとしました。自動運行装置とは「レベル3」に準拠する自動運転システムであり、その保安基準として、別図の通り定義しています。
レベル3では、通常走行時は自動運転システムに一任されるものの、危険回避義務はドライバーにあります。つまり、回避義務が生じた場合には、ドライバーに直ちに運転を引き継がねばなりません。そのため、ドライバーが常に運転に復帰できる状況にあるかを、システムが監視することを義務付けたのです。これは、部分的に運転を自動運転システムに委ねるレベル2も同じこと。そのため、スバル・アイサイトXにも、ドライバーモニタリングシステムが搭載されています。
レベル2は、基本的に「運転補助装置」に過ぎません。ハンズオフと言っても、離して良いのは文字通り「手」だけ。視線も注意力も決して離してはなりません。アイサイトXでは、新たにドライバーモニタリングシステムを連動させることで、ドライバーの視線の常時監視を行い、よそ見/わき見や居眠り等の検知を実施。注意レベルが低下したと判断した場合には、ドライバーに警告を行うとともに、ハンズオフの作動を停止します。
また、ステアリングホイールには、新たに静電式を採用。ACC使用時のステアリング保持の検知精度の向上を図っています。これにより、ステアリング保持確認のために、遊び分だけステアリングを動かす等の煩雑な動作が解消されています。
新世代アイサイトとアイサイトXは、着実な進化を遂げています。ただ、スバルは目的を見失ってはいません。2030年死亡交通事故ゼロを目指して、スバルの挑戦は続いていきます。
ドライバーとクルマを繋ぐ、センターインフォメーションディスプレイと全面液晶コンビネーションメータ
アイサイトXのように高度な機能を実現しようとすれば、操作系は当然複雑になります。これを単機能スイッチで収めようとすれば、旧世代航空機の如く数百ものスイッチが並ぶことになります。加えて、ドライバーが現状を把握するのに計器を用いれば、これまた数十の計器がダッシュボードを埋め尽くすことになります。
緊急事態と言えど、巡航中ならば数10秒の余裕がある航空機ならまだしも、自動車では瞬時の状況判断が要求されます。そのためには、直感的に状況を理解できるシンプルなグラスコックピットが絶対条件です。そこで採用されたのが、DENSO製インフォテイメントシステムであるセンターインフォメーションディスプレイ+全面液晶コンビネーションメータです。
自由に表示内容を切り替えられるグラスコックピットであれば、ドライバーに対し必要な情報を必要な分だけ必要な時にのみ提供できます。これにより、ドライバーは自然に注意を払うべき対象を認識し、これに意識を集中することが可能になります。
2つの液晶パネルは、同一のコントロールユニットによって制御されており、ドライバーに常に最新・最適な情報を提供します。また、センターインフォメーションディスプレイはいわゆるインフォテインメントシステムと呼ばれるもので、タッチパネルになっており、オーディオ及びナビに加えて、各種機能の選択・制御は全てこちらに集約されています。
一方、コンビネーションメータは計器及び状況表示の役を担っており、アイサイトXの作動状態を表示する機能を担っています。メータ表示は、3種の設定。アナログメータ同様の2眼メータ表示となるノーマルモード、左右にコンパクトに計器表示しつつセンターにマップを表示する地図モード、そしてアイサイトの作動状態及び周囲の認識状況を表示するEyeSightモードの3つ。ドライバーは好みに応じて、モードを選択することが可能です。
インフォテインメントシステムの搭載により、殆どが廃止されたスイッチ類。エアコンは温度コントロールを除いて、全てGUI化されています。これに対し、物理スイッチのまま存置されたのが、ステアリング上のアイサイト用制御スイッチ。やはり、ブラインドで直感的に操作するスイッチには、ちゃんと「押し応え」のあるスイッチが適しているのでしょう。
CASE時代を迎えて、自動車の機能は加速度的に増加しています。その分、希望を機能を呼び出すまでの時間は累積的に増加する傾向にあり、操作系の改善は今後OEMにとって急務となるでしょう。例えば、ボタン一つ押せば良かったAVHは、ホーム画面>車両制御>オートビークルホールドと、3つの操作が必要になっています。これは、前席シートヒータも同じです。
スマホが提供するのはプラットフォームで、機能を提供するのはアプリのデベロッパーです。これに対し、自動車はプラットフォームも機能も全てOEMが提供せねばなりません。OEMの仕事は急激に増加しつつありますが、これを真に克服することが求めらてています。