2021年発表予定、スバル・トヨタの共同開発BEVは、欧州を席巻できるのか。 [2021年02月12日更新]
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期待の新世代BEV。2021年、トヨタが先行して発表。続いて、スバルが発表か。
少し古い話になりますが、2020年12月14日にスバルの欧州現地法人であるスバルヨーロッパは、新型BEVを2020年代前半に投入予定であることを明らかにし、2021年中に詳細を発表予定と公表しました。一方のトヨタは、これに先んじる12月7日に、BEVを2021年に欧州で発売することを発表しています。
スバルがフォレスターサイズのSUV、トヨタもRAV4サイズのSUVとしていることから、このモデルこそ2019年6月6日に公表されたトヨタ・スバル共同開発BEVのミディアムSUVであるのは間違いありません。まず、トヨタが欧州にて先行発売し、それにスバルが続く。その後の日本、米国での発売は、欧州での反響次第。となるはずです。これが、共同開発BEVのスケジュールとして想像されます。
この情報自体は、以前より公開されてきたものと大きな変更はありません。ただ、欧州現地法人で真っ先に発表されたことには、大いに意味があります。スバルの新型BEVが欧州市場をターゲットに登場する、ということです。
この10年、スバルが「軽視」してきた欧州市場。スバルは90年代末にWRCで絶大なる名声を築き上げ、欧州市場でも個性派技術ブランドとして一定の成功を収めてきました。しかし、WRC撤退後は新型車投入は後回しとされ、販売網強化も進まず、フェードアウトやむ無しの状況となりつつあります。その背景に、米国市場での躍進があるのでしょうが、一本足打法はハイリスク。好ましい状況ではありません。
スバルが欧州市場を寡作のままに任せる間に、その市場環境は劇的に変化しつつあります。それは、EUの「護送船団方式によるBEV戦略」が大いに成功しつつあるからです。
メガサプライヤーが技術的主導権を握る、欧州の自動車産業。護送船団方式でBEVに挑む。
Alexander Migl, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
かつて、サプライヤーはパーツ単独でOEMに納品するのが仕事でした。例えば、マーレはピストン、ボッシュならばインジェクタといった具合です。しかし、自動車技術の深度化に従って、サプライヤーは自らの技術領域を拡張し、より大きなビジネス機会を得るべく、機能単位での供給を志向するようになります。例えば、インジェクタ単体供給から、シリンダーヘッド一式、そして制御系を含めたエンジン燃焼システム一式といった具合です。但し、これを実現するには、複数の技術領域を横断的に保有していなければなりません。そこで、欧州のサプライヤーは合併を繰り返し、メガサプライヤーへと規模を拡大していきます。結果的に、欧州OEMのメガサプライヤーに対する依存度が高まり、技術的主導権はメガサプライヤーへ移っていきます。
この流れは、ディーゼルエンジンで特に顕著になります。HV技術で致命的な遅れを取ったEU勢の選択は、コモンレール式ディーゼルエンジンでした。熱効率が高く、低速トルクに勝るディーゼルは、実用領域に於ける効率・フィーリングに優れていたのです。たった一つの「嘘」を除いて。。。2000年代初頭、無意味な燃費「値」競争に明け暮れる日本のOEMを尻目に、欧州のOEMは自動車そのものの価値向上を志向したのです。ボッシュに牽引されたEU勢は、全軍一致の護送船団方式でのディーゼル推進作戦を展開します。こうして、欧州OEMのディーゼルは軒並み「ボッシュ」製に切り替わっていったのです。
ところが、ディーゼルゲート事件を境に状況は一変します。隠蔽していた「嘘」が白日の下に晒されたのです。一見、環境適合性の高いディーゼルですが、効率が高いと言えども、実際には大量の排出物を撒き散らしていたのです。ディーゼルは、あっという間に存在意義を失ったのです。
欧州OEMは、次なる時代に向けて方針転換を余儀なくされます。しかし、今さらHV技術に注力しても、その技術的余命は長くありません。特に、ガソリンエンジン技術への再注力は、リターンが少ないであろうと判断されます。しかし、このまま状況を放置すれば、日本にトレンドセッターを奪還されるのは間違いありません。
そこで下された決断が、全軍一致でのBEVへの方針転換でした。しかし、その戦略には再び「嘘」が含まれていたのです。
BEVでトレンドセッターを狙うEU勢がひた隠しにする「嘘」とは。
TTTNIS, CC0, via Wikimedia Commons
地球的規模での環境保護を目的に各国で導入が進められているのが、各OEMの全販売車両の燃費平均値に対して燃費規制を掛ける、CAFE(企業別燃費基準)規制です。但し、その実現には、燃費測定の世界的な統一基準が必要です。そこで導入されたのが、世界標準の燃費測定方式WLTCモードです。各国の実情に合わせて規制値は各々異なるものの、OEMには全世界規模での燃費改善義務が課されたことになります。
ただ、WLTCモードだけでは、PHVやBEV、FCVをガソリン・ディーゼル車と同じ土俵で比較するできません。これら次世代車両を内燃機関車両基準で比較可能とする、「換算方式」が必要です。そこで、日本、米国、中国が導入したのが、Well to Wheel方式です。この方式では、原料を採掘・運搬し、エネルギー源へと改質し、これを各車両に供給する過程で生じる一連の損失が含まれています。そのため、より現実に即した「燃費値」を得ることが可能になります。トリックを排除する、良心的な換算方式だと言えるでしょう。
しかし、護送船団方式でBEVを推進するEUは、このCAFE規制に「嘘」を埋め込みました。それが、Tank to Wheelという測定方式です。この方式で問われるのは、各車両に供給された後の効率のみ。つまり、BEVでは単純に「電費」だけを考慮すれば良くなります。もし、電源を化石燃料に依存していたとしても、そこで生じる一切の損失は問われませんし、送電ロスや充電ロスも一切問われないのです。この方式では、BEVが一方的に良好な燃費値を示すことになります。
これこそが、EUの狙いです。欧州のプレミアムブランドは、高級・高性能BEVモデルを相次いで発表。BEVこそが最適解であり、真の「エコ」であると、世界にその魅力の訴求を始めます。
ただ、そこにはもう一つの「嘘」が隠されています。BMWが2014年に発売したコンパクトEV「i3」は、400万円を超える価格がネックとなり、失敗に終わっています。それから、7年。依然としてBEVの周辺技術は量産効果は期待できず、価格は高止まり。本来あるべき普及価格帯でのコンパクトEVは、依然実現不可能でした。そこで、BEVをプレミアムブランドのミディアムクラスに据えることで、彼らは価格に正当性を与えることとしたのです。ただ、プレミアムブランドの顧客は、高い性能と航続距離が求めますから、これを満たすために電池搭載量が増加。結果、日産・リーフより1t近く重い「全くエコではないエコカー」が誕生することとなったのです。
EU勢からトレンドセッターを奪還せよ。新世代BEVが握る、日本車の未来。
HV技術で先手を取った、日本のOEM。しかし、欧州から発信されるBEV至上主義に押され、今やその先進性を失いつつあります。ただ、電動化の回答はBEVに限りません。無理くりにBEV化を推進するよりも、現時点での最適解を選択していくことの方が、技術倫理上正しいのは間違いありません。
究極的に考えれば、移動距離の短い市街地走行ではBEV、長距離移動にはFCVが適しています。ただ、地域・国家の実情は各々異なりますから、究極的回答が最適解であるとは限らないのです。
トヨタは、パワーソースの選択肢をBEVに収斂させるのは拙速だとして、地域の実情に合った最適なパワーソースを提供することが重要だとしています。例えば、電気事情の悪い地域ではHVを、充分に再生可能エネルギーを確保できる地域ではBEVを、水素の地産地消が可能な地域ではFCVを、高い整備レベルを維持できない環境では内燃機関を、といった具合です。また、あらゆる地域・あらゆる環境で使用可能な自動車を提供するのは、OEMに課された使命である、ともしています。盲目的にBEVに邁進することだけが、唯一の正義では無いのです。
しかし、Well to Tank方式で見ても、BEVのCO2排出量が圧倒的に少ないのは確かです。前述の通り、最終的にはBEVが一つの究極解となるのは間違いありません。その面では、日本のOEMがBEVに消極的だったのは事実です。
ただ、日本のOEMは手をこまねいてきた訳ではありません。HV/PHVを含めた電動化比率は、今や35%に達しており、世界第2位。総台数は150万台にも達します。HV/PHVを通じて、BEVの周辺技術は信頼性・サプライチェーン・価格低減を含め、充分に確立されていると言えるでしょう。
今回、トヨタとスバルが発表するBEVは、トヨタ連合が開発する本格市販BEVの第1弾。郷に入っては郷に従え、BEVにはBEVをとばかりに、このBEVは敵地EUに乗り込んでいくことになります。そこで最も注目すべきは、その価格です。日本車は、常にそのコストパフォーマンスで世界を驚かせてきました。もし、欧州のOEMが青ざめるような価格を実現出来るのだとすれば、日本は再び世界のトレンドセッターを奪還できるでしょう。
さぁ、21世紀の欧州市場を巡って、日本車にとって世紀の1戦がやってきます。その軍配はどちらに上がるのか。私たち西三河の民にとって、それは関ヶ原。その帰趨は、自身の未来さえ左右することになるのですから。