2025年ルマン総括。トヨタは如何にして破れたのか。 [2025年06月18日更新]

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2025年ルマン24時間レース、最終総括。
 
2025年6月18日 フェラーリは如何に勝ち、トヨタは如何に破れたのか。

出展:TOYOTA GAZOO RACING ウェブサイトより。

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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

お問い合わせ:0566-92-6115

担当:余語

 

2025年6月14日午後4時、24時間の熱戦が幕を開ける。

日本時間:2025年6月14日23時。伝統の24時間レースの火蓋が切って落とされました。総合優勝を争うHYPER CARカテゴリー総勢21台のマシンは、ダンロップ・シケインになだれ込みます。21台は大きな接触もなく1周目を終えたかに見えましたが、実は違いました。トヨタ・7号車が3ワイドから接触。サイドボディに穴を開けていたのです。まぁ、何のことはなく、トヨタ勢は以後も劣勢のままレースを進めるのですが。。。

序盤、レースをリードしたのは3台のポルシェ勢。トップを快走する5号車、予選後の車検違反で最下位から追い上げる6号車。そして、IMSAから参戦の4号車。夜の帳が下りる頃には、一旦は1-2-3体制を構築します。これに対し、フェラーリ勢は上位に付けつつも、勝負を焦らず静観の印象。ルマン2連勝の余裕か、底知れぬ強さへの自信を伺えます。

この序盤を鮮やかに快走したのは、BoPでも有利と目された4台のキャデラック勢。但し、IMSAから遠征した2台はトラブルに見舞われ、夜半には後退。残るは、12号車、38号車のJOTAのワークス2台。それでも、淡いゴールドのキャデラックは、順調に上位で周回を重ねていきます。

同様にBoPで有利とされたのが、2台のBMW。5〜8位を走り、上位陣に喰らいついていきます。ただ、ペースで僅かに劣る2台は、徐々に後退。鶏口牛後、ベスト・オブ・ザ・レストを目指す戦いを展開していきます。

対するトヨタは、HYPER POLEに進んだ8号車が10位近辺、TS020を再現するスペシャル・リバリーを纏う7号車は周回遅れ寸前と、すっかり下位に低迷。ソフトタイヤでの3スティントというオリジナルプランで、上位進出を狙います。しかし、純粋なペースでは、フェラーリ、ポルシェの敵ではなく、アルピーヌやBMWと接近戦を展開。但し、キャデラックに追いすがるのも不可能で、朝を迎える頃には上位進出は絶望的になっていました。

トラブルフリーのHYPER CAR。上位最初の脱落はトヨタ8号車。。。

ルマンの空が白む頃、戦況は一変していました。フェラーリ勢が上位を独占していたのです。トップを往くのは、イエローが鮮やかな83号車。プライベートエントリーの1台。これに、50号車、51号車の2台が続きます。代わって後退したのが、ポルシェ勢。5号車はペナルティ等で後退。特に4号車は深刻で、ペースもガクリと落ち、今やトヨタやBMWと争う状態。唯一、上位に居座るのは、昨年のWECチャンピオンカーの6号車。この6号車は唯1台、レース終盤にフェラーリ勢に切り込んでいくことになります。

陽光が鮮やかにサルテ・サーキットを包む、朝のひととき。それは、ルマン24時間で最も恐ろしい時間帯。ハイペースで夜を走りきったマシンが、次々に馬脚を現すタイミングです。しかし、今年は違いました。LMP2にはトラブルが幾つか起こるものの、HYPER CARは変わらぬペースで走り続けたのです。脱落したのは、先述のIMSAからのキャデラックのみ。今回のルマンは、恐ろしい程の完走率になる。そう、予想されました。

上位陣に変化があったのは、昼過ぎ。ピット作業を終えた8号車が、ピット出口で僅かにフラつくと、1コーナーで左フロントのホイールナットが脱落。エセスに至ると、左Fタイヤも脱落。まるまる1周のスロー走行を余儀なくされたのです。8号車は、何とかピットへ帰還。左Fの足回りをゴッソリ交換するも、戦線から離脱します。残されるは、7号車。しかし、コチラはフリー走行以来、ずっとスピード不足。10位近辺を争っていたに過ぎず、この時点で表彰台獲得の可能性は完全に潰えたと言えます。

レース後半にペースを落としたのは、BMWとアルピーヌ。BMWは終盤に次々にトラブルに見舞われて脱落。アルピーヌは、序盤こそBMWやトヨタと順位争いを展開していたものの、徐々に後退。下位が定位置となります。

レース最終盤、フェラーリが突如劣勢に。迫るポルシェ6号車。

レースも終盤、残り3時間を切ると、勝敗の分水嶺は残りピット回数。WECのレギュレーションでは、給油とタイヤ交換は同時実施できません。そのため、タイヤ無交換とすれば、ピットタイムを削ることが可能です。

ここで優位に立ったのが、フェラーリ勢。ミディアムタイヤで3スティントを安定してこなす彼らは、ピットのロスタイムも最小限。安定したペースと合わせ、レースを圧倒的優位に展開。盤石の1-2-3体制を、より堅固なものにしていきます。

しかし、ルマンはそう甘くはありません。レースが残り2時間を切る頃、トップ83号車のペースがガクリと落ちます。ドライブするクビサは、シフトダウンにトラブルを抱えている旨を報告。よもやトップ陥落。情勢は一気に緊迫します。これを追うように、50号車、51号車もペースを2〜3秒落とし、フェラーリは緊急事態に。聞けば、ワークス2台にはエンジントラブルの兆候があったとか。。。

ここで一気呵成に切り込んだのは、ポルシェ・6号車。ハイペースで追い上げると、ピットインのタイミングでワークスフェラーリをパス。これを退けて、83号車を追い上げていきます。ペースが安定しない3台のフェラーリ勢に対し、終盤に一気に勢いも増す6号車ポルシェ。勝利の美酒に醉うのは、フェラーリか、はたまたポルシェか。最終盤になって、ルマンは漸く「らしく」なってきたのでした。ここで注目は、50号車フェラーリの動向。ピットタイミングがズレているため、ラストのスプラッシュ・アンド・ゴーがなければ、逆転優勝の可能性も残されていました。もし、セーフティカーが入れば、ゴールまで辿り着ける。。。

両者の戦いが決着したのは、最後のピットストップ。3スティントをこなせないポルシェは、最後のストップでタイヤを交換。一方の83号車は、安全策で再び4本のタイヤを交換すると、19秒差でトップを維持。しかし、トップを走るのは50号車。ただ、今年のルマンは何も起こらず。。。50号車がスプラッシュでピットに飛び込むと、83号車がトップへ復帰。ペースを上げて、6号車を振り切りに掛かります。

現地時間15日16時、83号車チェッカー。これに、6号車、51号車、50号車が続きます。トヨタは、12号車キャデラックの後塵を拝する屈辱の7位。ベスト・オブ・ザ・レストの座を得ることも叶いませんでした。

83号車フェラーリが総合優勝。しかし、50号車は失格に。。。

ただ、波乱はもう一幕残されていました。4位でゴールした50号車が車検不通過、失格処分とされたのです。理由は、リヤウイングのたわみ量。FIAによれば、走行中に4本の取り付けボルトが脱落。これによりウイングたわみ量が増加し、ストレートラインで最高速のアドバンテージを得ていた、とされていたのです。

戦前の予想では、BoPテーブルの解析からフェラーリはトヨタよりもストレートスピードが厳しい、と思われました。しかし、結果は予想と完全に真逆。BoPで圧倒的に優位なはずのポルシェやキャデラックに対しても、ストレートで十分戦えるスピードを発揮してみせたのです。

戦前より、フェラーリはストレートスピードの改善に手を尽くしている、とのコメントを残していました。F1では、自然に聞こえる話も、WECでは幾分穏やかではありません。なぜなら、WECでは一度ホモロゲーションを受けたマシンは、容易には手を加えることはできません。リヤウイングの角度さえ調整できないのが、WECのHYPER CARなのです。

じゃぁ、どのようにしてストレートスピードを稼ぎ得たのか。そのヒントは、F1のフレキシブルウイング論争にあります。ダウンフォースは速度に比例して増加し、それと同様にドラッグ(抗力)も増加します。もし、高速域(特にストレート)でダウンフォースを軽減できれば、ストレートスピードを伸ばすことができるはずです。

この分野はF1では現在最もホットな領域として、盛んに研究が行われています。同時にFIAも規制に乗り出しており、年々ウイングのたわみ量測定は強化されているものの、規則の抜け目を探しては進化を続けているのです。F1のオンボードカメラを見れば、ウイングがストレートでたわむのは見慣れた光景。それでも、車検検査に通るウイングをF1では実現できているのです。

現在、WECに参戦する各ワークスのうち、直接的にF1と関係するのはフェラーリのみ。となれば、彼らがフレキシブルウイングの技術を導入したとしても、おかしな話ではありません。車検を通るのなら、それは「合法」なのですから。

フェラーリが車検を通るなら、それはあくまで合法。

トヨタはルマン終了後のコメントにて、50号車の車検違反とストレートスピードの速さを関連付けて、嫌味たっぷりのコメントを残しています。しかし、それは唯の言い訳。如何なる正当性があったとしても、83号車と51号車は厳しい車検を通過して、正式リザルトとして承認されているのですから。ルマンの歴史に刻まれるのは、言い訳ではありません。勝者の名前だけなのです。

もし、トヨタが言うように、フェラーリのフレキシブル技術に早くから気付いていたとすれば、それは怠慢でしょう。何せ、トヨタがストレートスピードで足枷をされるのは、今年に始まったことではないのです。だったら、もっと前に研究に着手しているべきです。トヨタの欧州拠点には少々古いものの、高い評価(つまり、実際の走行との高い相関性)を得た風洞があります。ならば、もっとやれる事があったはずです。

HYPER CAR規制では、車両形状は厳しく規定されており、シーズン中の変更は不可能。オフシーズンの改修でさえ、全チームの同意が必要です。しかし、カウル1枚の製造方法まで規定している訳ではありません。ならば、意図的に部分強度を変えることで、速度に反応して空力特性を変化させることは不可能ではありません。例えば、フェラーリはリヤウイングの下に、デッキ上のパネルが伸びています。このパネルをたわませることも可能です。同様に、フロントカウルのタイヤ周りのパネルも、速度に感応して変形させることも可能なはずです。これらを組み合わせれば、前後のダウンフォースバランスやダウンフォース量そのものを、速度に応じて変化させることができます。

そんなズルをしてまで、という方もおられるでしょう。でも、フェラーリを通じてF1技術が流入するのは間違いないことであり、これに対処しないことには永遠に勝てません。ならば、正攻法だけでは勝つことは不可能。現実に、あれだけ厳しいBoPを課せられても、フェラーリは勝ち続けているのです。

F1技術の流入により開発費は高騰一直線。トヨタは如何に。

FIAがルマンという檜舞台で50号車を失格としたからには、相当な覚悟があるはずです。今後、FIAは規制を強化し、フレキシブルウイングやフレキシブルカウルの取締りを強化するでしょう。でも、F1同様に規制には限界があります。現実に、F1のウイングは今日もたわんでいるのです。ただ、簡単な話です。フェラーリのBoPをもっと厳しくすれば良いのです。

WECもルマンも、遊びではありません。LMP1時代から圧倒的に廉価になったとは言え、少なからぬ投資をOEMは行っているのです。それに相応しい見返りとして、輝かしいリザルトを望むのは、ごく自然なこと。来年以降、ヒュンダイ、マクラーレン、フォードが新たにHYPER CARへの参戦を表明しており、HYPER CARの戦いはますます厳しくなります。マクラーレンなぞは、積極的にF1技術の活用を望んでいるはずです。

今回のフレキシブルウイング論争を発端に、HYPER CARを取り巻く環境は急速に変化することでしょう。開発予算が一気に高騰する可能性も孕んでいます。そうなってしまえば、幾つかのメイクスは「敗者」の屈辱のもと、撤退を余儀なくされるでしょう。それでも、勝ち残った者にだけ、ルマンの女神は素晴らしい賛美を与えるのです。

トヨタの参戦体制は、完全にマンネリ化しています。年々、負け癖が強くなっているように思えます。「勝つか負けるか」ではなく、「勝てるかもね」なんて姿勢に変化しているように見えるのです。トヨタは、これで3連敗。チーム代表は、更迭されて然るべきです。もし、同様の体制で来年も参戦するのなら、トヨタは金輪際絶対に勝てません。

ルマンの厳しさを一番噛み締めて来たのは、トヨタ自身のはず。モリゾーにゴマ擦ってれば安泰、なんて体制では決して勝てる訳がないのです。トヨタが5連覇していた時代、ルマンがかつての大らかさを取り戻した感があり、悪くありませんでした。でも、時代は変わりました。ルマンは今また、厳しいメイクス競争の時代に移ったのです。

「勝つ、勝つ、勝つ!」ある方は、勝利への渇望と決意を言葉にしました。トヨタよ、何のためにルマンを続けるのか。いま一度再考して然るべきでしょう。

文責:スバルショップ三河安城和泉店 営業:余語

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